精神科医療の未来を見据えて

寺田 悦子[著]

2023.04.21

1760円(税込)

幻冬舎

単行本

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書籍内容

精神疾患を抱えた人が幸せに暮らす社会を実現するために
患者本位の医療・福祉を追求する

精神科医療の現場で
奮闘を続けてきた看護師の物語

日本の精神科医療は長らく、多くの問題を抱えてきました。
世界各国と比較して入院日数が長いうえに身体拘束が多く、
国際社会から批判されてきたのです。また、精神科病院の職員による患者への
暴行・虐待事件は今でも少なからず報道されています。
そしてなにより、精神疾患を抱える人を支援する国の体制も整っておらず、
病院を退院した患者が地域で安心して暮らすことができないという問題も
根深く残っています。

1972年に看護学校を卒業した著者は、国立病院の精神科で勤務したのち、
1975年に精神科病院の閉鎖病棟の看護師として働き始めました。
閉鎖病棟において患者の外出や私物所有がいっさい許されていない状況を
目の当たりにした著者は、悲惨な環境を少しでも良くしようと、
患者を病院の外に連れ出したり私物を持ち込めるようにしたりなど、改善を行います。
しかし、一人の看護師としてできることは限られていると考えて勤めていた病院を退職し、
1987年に精神疾患を抱える人のための作業所を開設。初めは小さな施設でしたが、
徐々に利用者が増え規模も拡大し社会福祉法人格を取得するまでに成長しました。
さらに著者は、医療と福祉をつないで双方から患者を支援できる仕組みをつくろうと考え、
2005年に精神科訪問看護ステーションを開設しました。
ステーションでは「その人らしい豊かで多様な生活を応援する」という理念を掲げ、
日々理想の精神医療を追求しています。

50年にわたって精神科医療の最前線で奮闘してきた著者の軌跡は、
精神科医療に携わる人だけでなく、広く医療、福祉に関わる人にとって、
患者本位の医療、福祉はどうあるべきかを考えるきっかけになるはずです。

目次

はじめに

序章 長期入院、患者の使役、身体拘束——
日本の精神科病院が抱える闇
精神科の入院日数は一般病床の約17倍
ベッド数も約34万床で世界トップクラス
年々増加する身体拘束件数
日本ではニュージーランドの約2000倍も身体拘束が行われている
精神科における人権問題で国連が日本を調査
少ない医師・看護師数を容認する「精神科特例」とは?
精神科病院における虐待問題で刑事事件に発展
地域に受け入れ体制がないから長期入院せざるを得ない

第1章 病院勤務で目の当たりにした精神科の実態
地域に患者の居場所をつくるため、福祉作業所開設を決意
学生運動盛んな時代に看護学校へ入学
病棟実習後に寮で突然死した同級生の衝撃
医師と対等に議論する看護師を見て精神科に憧れる
志ある医療従事者が集まり開放病棟を目指す
暴言や電気ショック、数十年単位の長期入院が蔓延する精神科病院
トイレットペーパーを持参して喫茶店に入った患者の思い出
コップの中の嵐によって少しずつ衝突が生まれていった
地域に精神科診療所をつくりたい
窓から飛び出した患者を全員で追い掛けたことも
電話相談にも攻撃的な電話がかかってくる
強制入院させなければならず無力感に打ちのめされる
志を同じくする仲間との出会い
地域を知るために作業所をつくりたい

第2章 医療だけ・福祉だけでは不十分
福祉作業所で痛感した、地域における精神科の課題
棕櫚の木にちなんで命名した作業所「棕櫚亭」を開設
「利用者」ではなく「メンバー」と呼び合う
毎日皆で献立を決めて昼食作りに精を出す
買い物、料理、掃除、麻雀、バザーなど多様な活動
メンバーたちは働きたいという強い希望をもっていた
ゴルフ場の球集めは人気のアルバイト
障害のある人の短時間就労を学びにアメリカへ視察旅行
1日2時間ならば病気があっても働ける
棕櫚亭に通うことで言葉を発するようになったメンバー
問題行動がなくなって措置入院しないようになったメンバーも
棕櫚亭で出会って結婚したカップルもいる
恋愛や人間関係を構築することは病気にもプラスの影響が
アートや知的方面で活躍する統合失調症患者
棕櫚亭を応援する外野手(そとのて)
メンバーのニーズに応えて第2、第3の棕櫚亭を開設
「作業」ではなく「仕事」がしたい!
社会福祉法人「多摩棕櫚亭協会」を設立
必要なのは永続的な支援ではなく自立に向けた支援
就労支援にスポットを当てた「社会就労センターピアス」を開設
支援の期限を2年間に区切って自立を促す
卒業生の5割が就職を果たす
医療とつながっていない地域生活支援センターの活動に限界を感じる
連絡なく退院した患者が火事を起こして大騒動に
精神科病院と地域の間に横たわる隔たりをなんとかしたい

第3章 全国に先駆け精神科訪問看護ステーションを開設
病院と地域をつなぐため手探りでスタートした悪戦苦闘の日々
次なる展開として訪問看護ステーションの立ち上げを決意
異なる視点をもつさまざまな年代の仲間が集まる
NPO法人多摩在宅支援センター円が誕生
精神科訪問看護の役割を理解してもらえない
行政と連携しさまざまな委託事業を受託
精神科病院との連携を一緒に考える
地域連携がなくては精神科訪問看護は活動不可能に
おしゃれが大好きで有名歌手の愛人という妄想をもっていたAさん
Aさんの異変に気づいたのは近隣住民だった
押し入れから一歩も出てこないBさん宅の訪問
「お母さんのいる家と施設の2つの家がある」という子どもたち
医療と福祉が一緒に活動することの難しさ

第4章 ACTの取り組み、行政との連携、ピアサポーターの雇用……
すべては「その人らしい生活」を支援するために
その人らしい生活を支援するTACTとは
患者の自由を尊重し、その人らしい暮らしを支える
夢や希望に向かう過程を応援する
限られた環境のなかでどうやって支えるか知恵を絞る
強みや得意なことにアプローチするストレングスという方法
患者や利用者の願望を引き出すのは簡単ではない
オリンピックの出場を目指して一緒にトレーニング
20年ぶりに思い出のラーメンを食べる
息子を選挙に連れて行きたいという母の願いをサポート
当事者であるピアスタッフも活躍
当事者が置き去りになっている状況を改善したい
マナーやルールを知れば地域で暮らしやすくなる
関係者からも注目が集まるピアスタッフの常勤雇用
ピアスタッフもほかのスタッフも育成方法に変わりなし
医療と福祉が密に連携しながら利用者を支える
引きこもりだった女性が家族会で発表できるように
「お腹空いた」と言って生肉を持ってきた子どもたち
疾患のある母親と子どもをサポートするためにPCG事業をスタート
PCG事業を卒業して通所施設に通う人や働けるようになった人も
母親の精神疾患は子どもに大きな影響を及ぼす
必要なのは「家族丸ごと支援する」発想
高度急性期を経て精神科の魅力に気づいた仲間たち
法人の理念は迷った時の道しるべになる

第5章 根強く残る精神科病院の問題
訪問看護で患者の明るい未来をつくる
株式会社化から11年が過ぎ、次なるステージに進む時
過当競争のなかであるべき訪問看護ステーションの姿とは
活動記録を研究成果としてまとめることも重要に
対話を通じて治療につなげるオープンダイアローグ
身体も精神も看られる訪問看護ステーションとして
高齢化によって生活習慣病と精神疾患の両方を患う人も増加
当初の理念どおり24時間365日対応も継続
精神科にも地域包括ケアシステムができた
増え続ける精神疾患の患者数
精神科病院に出向こう

おわりに

著者:寺田 悦子

1951年埼玉県生まれ。1972年国立埼玉病院附属高等看護学院卒業。
看護師・精神保健福祉士・介護支援専門員。
国立病院・民間精神科病院で十数年間看護師として勤務後、1987年に友人たちと
「共同作業所棕櫚亭」を開設。
1997年より社会就労センターピアス勤務、
その後1999年より地域生活支援センターなびぃ勤務。
2005年にNPO法人多摩在宅支援センター円を立ち上げ、
2012年2月には株式会社円グループを設立。
現在、立川市、八王子市、新宿区等で訪問看護ステーションや地域活動支援センター、
相談支援事業所、居宅介護支援事業所などを運営している。

ネット書店

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