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『7つの”デキない”を変える”デキる”部下の育て方』著者リザルトデザイン代表 井上顕滋氏|“叱れない”時代に部下を育てるためには?
さまざまな組織でパワハラ問題があとを絶ちません。このような問題が注目される一方で、人を指導する立場にある人が指導方法の難しさに直面しているのも事実です。 人を育てることが難しい今の時代、上司や先輩はどのように考えればいいのでしょうか? 『“デキる”部下の育て方』著者である、リザルトデザイン株式会社代表の井上顕滋氏に話を聞きました。
上司と部下、どっちも辛い現代社会
――『“デキる”部下の育て方』をお書きになった背景からお聞かせください。
今は昔に比べて部下の指導が難しくなっていると思います。そもそも若い世代が減ってきているので、あらゆる業種で人材不足が叫ばれている。単に人数の問題だけではなく、働く人の仕事に対する認識もずいぶん変わってきていますよね。
「最近の若いモンは」と言う人は昔からいましたけど(笑)、昔の感覚のまま頭から部下を否定するようなやり方を続けている上司の方もいます。それは全体にとってあまりハッピーな方法ではないですよね。
――確かにおっしゃる通りです。
この本のタイトルは「デキる部下の育て方」ですが、編集さんとのやり取りの中で「ダメな部下の変え方」という案も出ていました。でも私は「ダメな部下」という言葉は使いたくなかったんですよね。
どうしてもダメな人って確かに一部いるかもしれないけれど、実際には、上司の関わり方を変えるだけで、大きな変化、成長をすることはよくありますし、会社の仕組みを少し変えたり、風土づくりに力を入れたりするだけでも、問題が解決することがよくあるんですよね。それに本人の責任ではなく、幼少期の育てられ方に原因があるケースが多いのも事実なんです。
そういった本当の原因を認識せずに、その部下を「ダメ」と否定するのは嫌だな、と。「ダメ部下」のレッテルを貼られた方だってたまったもんじゃないし、それじゃモチベーションが上がらないからパフォーマンスも上がらない。パフォーマンスが上がらないから同僚やマネージャーの負担も増えるしストレスも溜まる。それによって風当たりがますます強くなっていく…。
――まさに悪循環ですね。
さらに今は上司の方も強く指導ができません。パワハラだと言われてしまうから。これじゃあ出世もしたくないですよね。実際にマネージャーをやっている方を見ていても、精神的にしんどそうな方がとても増えているなと感じます。
――今回のご著書は、そんな部下の育て方に悩んでいる上司の方に向けられた本なんですね。
できない部下の一因は父性愛と母性愛の不足
――先ほど「幼少期の育てられ方にも原因がある」とおっしゃっていましたが、その点について詳しく教えてください。
1980年代後半くらいから教育の現場では体罰が問題視されるようになって、その頃から「叱らない子育て」が増えてきたように思います。
あるアンケートで、高校生以下の子どもたちに「自分はダメな人間だと思いますか」という質問があり、「そう思う」と答えたのが1980年代で12.9%。それ以降、極端な上がり方をしていて、
以前に筑波大学の村上名誉教授が世界20カ国を対象に取ったアンケートでは日本の高校生で「そう思う」が66%。
他の国と比べても完全に異常値で、これが子どもの自殺の低年齢化や引きこもりの増加などいろいろな問題として現れている。もちろんビジネスの世界にも出てくるんですよね。その子たちが大人になるわけだから。
一般的には女性の方が年齢や立場に関わらず横の関係を広げることができますが、男性は縦の関係を重視します。男性はただでさえ上下関係の感覚が強いのに、さらに「父性愛」が不足すると相手に対して「自分の方が上だ」という感覚を持ちやすい。能力もまだないのにそんな感覚を持っていたら、組織の中ではやっぱりうまくいかないですよね。
――そのような感覚を持っている人がいわゆる「できない部下」に繋がってしまうのでしょうか。
一部はそうですね。父性愛が極端に不足している場合、会社の方ではどうすることもできないケースもあります。そういう人は面接時にフィルターをかけるしかありません。私が顧問をつとめている財団でも父性愛の不足が強く現れている方は入社をお断りしています。それくらい父性愛って大事なんです。
――ご著書『“デキる”部下の育て方』では、父性愛とは「困難を乗り越えるための叱咤するような愛」。母性愛は「そのままのあなたを大切に思っているという無償の愛」と書かれています。母性愛が不足するとどんな影響がありますか。
母性愛が不足すると愛されていないという感覚を持ちやすいので、自信がなくて自己肯定感が低くなりやすい。自己肯定感が低い人は何かに挑戦しようとしないので、自己効力感も上がりにくいですね。
ただし学校の勉強は少し違っていて、一人で黙々と覚えていくだけで良い成績を取ることもできます。中にはそれで良い学校は出たものの、自分に自信がないから新しいことに挑戦できないケースもありますね。
母性愛の不足は世代間連鎖すると思っています。なぜかというと自分が与えられて育ってないので、子どもに対しても与え方が分からないんです。
優秀な上司ほど「できない理由」が分からない
――部下の育成に悩んでいる上司はどうしたらいいのでしょうか?
そもそもマネージャーと呼ばれる立場にいる人たちが、なぜその地位に就けたのか。それは他と比べて仕事ができて会社から有用な人物と認められたからですよね。でもそのような優秀な人はできない人の感覚が分からない。これが落とし穴なんです。
多くのマネージャーはかつて「できる部下」で、どんな環境であれ自分の努力で頑張ってきた人です。厳しい先輩によってメンタルが鍛えられたおかげとか、何らかの理由があるかもしれないけれど、今の時代はそれが通用しませんよね。
部下が抱える問題の原因が会社の環境や周囲との関係にあったとしても「自分はできたから部下もできるはず」と考えてしまうのは自然なことです。
――つまり上司は部下が「できない理由」を知ることが大事なんですね。
絶対に重要です。だって熱が出ている理由がわからないでひたすら座薬を入れても仕方ないですよね。悪いところを見極めて炎症を止めるとか、炎症が起こる原因そのものの改善が必要です。それを理解することで問題はより解決しやすくなりますから。
最新の脳科学と心理的アプローチを使った人材育成
――井上代表が運営するリザルトデザインでは、脳科学や心理学を使って人材育成をされているそうですが、どのようなものか教えていただけますか。
例えば皆さんも「楽しいから笑うのではなくて、笑うから楽しくなる」という話を聞いたことがあると思います。他にもゆっくり動くよりも早く動いた方がポジティブな感情が働きやすいとか、上を向いて笑顔でいると気分が良くなるとか。これらは脳の仕組みの話です。
脳の仕組みをうまく利用することで感情のコントロールができるようになります。そうすると、気分が沈みすぎないとか、気持ちが早めに切り替えられるとか、自分自身が気分良く過ごせるだけではなくて、職場の雰囲気が良くなりますよね。職場の雰囲気が良くなれば会社に行くのが楽しくなる、そうすればパフォーマンスも上がる。
――自分にも会社にも良い循環が生まれますね。
逆に幼少期の成育過程でついたトラウマが悪さをしている場合は、いくら脳の反応を利用しても難しい。
幼少期の傷によって自分の中に押し留めているようなものは、多くの人は自分で気づいていません。でも何かの拍子でそこに触れるようなことがあると、バランスを崩してしまうんです。突然キレたり、涙が止まらなくなったり。ビジネスシーンでも人前で話すと手が震えるとか、汗が止まらないとか、赤面してしまう人もいますよね。あれも子どもの頃に原因があるのです。
それをコアビリーフセラピー®️のセッションによって取ってあげて、かつ脳の反応も使ってポジティブな状態を作る。そうすれば本来のパフォーマンスが出せるようになります。
――セッションを受けて劇的に改善した方の事例があればご紹介いただけますか?
ある若い女性がいました。仕事はお金を稼ぐ手段に過ぎなくて、仕方なく働いているだけ。もちろん楽しくないし、他の社員と仲良くなる気もない、いつもふてくされた態度の子でした。
原因を平たく言えば幼少期の親からの愛情不足で、特に母性愛が不足していましたね。自分には存在価値がないと思い込み、自分自身を否定しているから周りのことも否定してしまう。
その子をセッションしてあげると、表情からガラッと変わりましたね。本当に同じ子なのかと思うほど。本人も「仕事がこんなにも楽しいものとは思わなかった」と話してくれています。
他にも50歳手前の女性で、とにかく何に対しても「できない」と言う人がいました。人から褒められても「それは本音じゃない」と言い、ちょっとでも注意されるとそっちが真実だと思っている。本当にややこしかった(笑)。
この方の原因も幼少期の両親との関わりでした。先ほどの女性と同じく、セッションをすることで本当に変わりましたね。
――そのような特殊なセッションができなくても、何か上司の方が身につけておくといいスキルはないでしょうか?
スキルよりもまずは原因を知ることです。つまりKnow Howの前にKnow Whyなんです。ノウハウから入ろうとするから間違えてしまう。
ノウハウ本やノウハウ系の講座はとても人気がありますが、それがいかに遠回りなのかがわかっていない人が多い。原因が選別できて初めてそれに対するスキルが必要になる。マネージャーが真っ先に理解しないといけないのは、そこなんです。
今回の本の一番の目的は「できない部下」の原因を選別できるようになることです。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします。
日本は労働者の権利がとても守られている国なので、マネージャー層がしんどさを感じていると思います。その層がしんどいと日本経済にも良くない影響が出てしまいますよね。
部下の方だってせっかくのご縁で入社した会社ですから、やっぱり入って良かったと思ってほしい。そういう環境づくりや関係づくりに役立ててもらえたら、結構意味がある本になるのではないでしょうか。