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【著者インタビュー】『異端の福祉 「重度訪問介護」をビジネスにした男』著書・高浜敏之氏が年収1,000万円の従業員を多数輩出する秘訣とは
日本には、重い障害を持つ人々に在宅での介護サービスを提供する「重度訪問介護サービス」という仕組みがあります。重度障害者の可能性を広げ家族の負担を軽くする素晴らしい制度ですが、事業者不足などがハードルとなり、サービスを受けたくても受けられないのが現状です。また、介護スタッフの待遇は悪く、多くの人が離職を余儀なくされているのです。 こうした中、2020年に設立されたのが、重度訪問介護サービスを提供する「株式会社土屋」です。同社はわずか2年間で、従業員数が2,000人を超えるほどの急成長を遂げました。また、年収1,000万円以上の従業員を多数輩出するなど、従来の介護業界では考えられないほどの好待遇を用意し、多くの求職者を集めています。 同社の代表取締役兼CEOで介護業界の革命児と呼ばれる『異端の福祉 「重度訪問介護」をビジネスにした男』の著者・高浜敏之氏は、どのようにして従業員に好待遇を用意しているのでしょうか。また、同社の未来像をどのように描いているのか聞きました。
「重度障害者」に介護サービスを提供し生活の可能性を広げる
――高浜さんが著書『異端の福祉 「重度訪問介護」をビジネスにした男』を刊行したのはなぜですか。
一番の理由は、「重度訪問介護」というサービスと土屋の存在を世の中に知ってもらい、多くの方々の理解と協力を得たいと思ったからです。
重度の肢体不自由や重い知的障害・精神障害といった重い障害を持つ方々はこれまで、医療機関や自宅に閉じこもって暮らすのが当たり前とされてきました。しかし、医療機関で暮らす場合は、地縁のない場所で家族などと離れて過ごさなければなりません。また、外出に大きな制限がかかるなど、不自由な生活を強いられがちなのです。それに比べると、自宅で暮らす方が望み通りに過ごしやすいと言えますが、その代わりに家族の介護負担が重くなってしまいます。
そこで登場したのが、重度障害者の生活を支える公的サービスの重度訪問介護でした。日本中の誰もがこの制度を使えるようになれば、重度障害者が生きる上での選択肢はグンと広がりますし、家族の負担も小さくできます。ところが、素晴らしい制度にもかかわらず、サービスを受けたくても受けることができない人が多数います。
一人でも多くの方に重度訪問介護のことを知ってもらい、社会全体で課題の解決に取り組むきっかけをつくる。そのために、重度障害者の現状や重度訪問介護の現場の声、より良い未来への提言などをまとめ、解決の足がかりとする。それが、この本を書いた最大の動機でした。
――高浜さんが代表取締役を務める「株式会社土屋」(以下「土屋」)も、重度訪問介護のサービスを提供する企業ですね。
はい、そうです。「土屋」は2020年に設立され、わずか2年で47都道府県のすべてに事業所を展開するようになりました。2023年時点で、従業員数は2,000人以上、サービス利用者数は700人以上にまで成長しています。
「土屋」のサービス利用者の中で最も多いのが、筋萎縮性側索硬化症(ALS:全身の筋肉に脳の指令を伝える神経が障害を受けのどや舌、手足の筋肉が萎縮していく難病)の方です。また、脊髄性筋萎縮症や筋ジストロフィー、脳性麻痺、交通事故やスポーツのケガによる頸椎損傷などで体が不自由になった方もいます。こうした「重度の肢体不自由」に含まれる方が、全体の9割くらいでしょうか。残りの1割は、重い自閉症や知的障害で、自分や他人を傷つける可能性のある「強度行動障害」のある方々です。
――重度障害者の方々が受けているサービスの内容を、具体的に教えて下さい。
利用者の状況によって千差万別ですね。手が不自由な方なら食事や着替えの手伝いをしますし、足が不自由な方なら車椅子を押して外出の手助けをしたりトイレに連れて行ったりします。強度行動障害の方なら、自傷行為をしないように見守ったり、利用者と信頼関係を築いてストレスを取り除いたりするなどの取り組みが求められることもあるでしょう。すべて、利用者一人ひとりに応じて工夫する必要があるのです。
なかでも最も責任が重いのは、利用者の命を見守る仕事です。のどに痰が絡んだとき、一般の人なら、咳き込んだりして簡単に処理ができます。ところがALS患者などの中には、のどや舌の筋肉が弱まって自力で痰を切れない人もいます。そのまま放置すると呼吸ができなくなるため、スタッフが常に側にいて、必要な時はすぐに痰を吸引(喀痰吸引)する必要があるのです。
利用者に合わせ、24時間のケアを提供する。それが、重度訪問介護の大きな特徴だと言えるでしょう。
――重度訪問介護サービスを受ける人が増えれば、重度障害者もその家族も、今よりグッと幸せになれそうですね。
そう思います。ただ、現状はまだまだ厳しい状態です。重度訪問介護のニーズに対し、サービスを提供する事業者・スタッフの数は全く足りていません。その結果、日本中に「重度訪問介護難民」とでも呼ぶべき人が、たくさん残されています。
――なぜ、重度訪問介護難民が生まれてしまうのでしょうか。
原因は大きく分けて、以下の5つが挙げられます。
(1)重度障害者や家族が自宅で暮らせると思っていないため、地域で暮らすことを選択肢から外してしまう
(2)医療施設などの職員や地方自治体の福祉職員の中にも、制度をよく知らない人がいる
(3)地方自治体の財政負担が大きく、『できれば使ってほしくない』という心理が働きやすい
(4)「前例主義に陥り、重度訪問介護の普及に熱心でない地方自治体がある
(5)そもそも、重度訪問介護のサービスを提供する事業者・人材が少ない
私たちが直接関与できるのは、(5)の課題を解消することです。それで、短期間に事業所とスタッフを増やし、できるだけ多くの重度障害者に対応しようと努力してきました。また、制度やサービスについての情報を積極的に発信したり、地方自治体などとの信頼関係を築いたりすることで、(1)~(4)の解決にも貢献しようと考えています。
業務改革を進め利益を拡大し、高い給与を実現
――重度訪問介護を担うスタッフには、一般的な介護担当者と異なるスキルや心構えが求められるのでしょうか。
そうですね。もちろん、一般的な介護と共通する部分もありますが、重度訪問介護だからこそ求められるものもあります。特に大切なのが、柔軟性とモラルです。
当たり前のことですが、重度訪問介護のスタッフは利用者の自宅で介護を行います。このとき、「介護は~であるべき」などの強い固定観念があり、各ご家族の価値観や文化を尊重できない人はなかなかうまくいかないのです。また、既に申し上げたように、重度訪問介護では利用者の状況に応じて千差万別の対応をしなくてはなりません。そのため一般的な介護に比べると、高い柔軟性が求められます。
一方のモラルですが、先日、他社のスタッフが夜中に居眠りをして痰の吸引を怠り、利用者の方が亡くなるという事件があったそうです。このような事態を起こさないために、「重度訪問介護の現場では1つのミスが人命を左右する」と肝に銘ずる必要があります。
介護スキルは、研修を受け現場で経験を積んでいけば、自然と身につけることができます。これに対し、柔軟性やモラルの高さは後から伸ばしづらい部分なので、面接で確認するようにしています。
――ということは、柔軟性やモラルの高さがある人なら、未経験でもチャンスがあるということでしょうか。
その通りです。「土屋」に入社したスタッフのうち、過去に介護職の経験があった人は40%台に過ぎません。残りの50%以上は、全くの未経験だったのです。例えば、営業やアパレル店員として働き、お客さまの要望をうまくキャッチする力を発揮してきた人は、重度訪問介護の仕事にもすんなりなじめるでしょうね。もちろん、介護業界で長期間働いてきた人も、経験を生かして活躍できます。しかし、未経験者の方が先入観なく介護利用者に接して、良いサービスを提供できる傾向があるのです。
――なるほど、未経験・異業種からの転職でも十分に活躍できるのですね。ところで、「土屋」では未経験から年収1,000万円以上稼ぐ社員が何人もいると聞きました。
はい。当社では「ブロックマネージャー」以上の役職に就くと、年収が1,000万円を超えるケースがあります。また、厚生労働省の「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果」によれば、介護職員1年目の平均基本給は17万4,680円なのですが、当社では26万~31万円以上。入社2年目に年収500万円を超える社員もいるなど、相場より高い給与を実現できています。
介護の仕事は利用者やその家族の方々を支える素晴らしい仕事です。ただ、人はやりがいだけでは生きていけません。精神面だけでなく、待遇の面でも大きな報酬を得られるようにしたいのです。業界関係者の中には、「介護で儲けるなんてとんでもない」「介護業界の給与が安いのは仕方がない」と考える人が少なくありませんが、それではスタッフも事業者もいつか疲弊してしまうでしょう。それより、「福祉で稼げる!」という夢を与えることで優秀な人をたくさん集める方が、業界の発展をもたらしますし、ひいては介護利用者の幸せにもつながると思うのです。
――スタッフの待遇を改善し、持続的な成長を目指しているのは素晴らしいですね。ただ、そのためには利益率を高める必要があると思いますが、いかがでしょうか。
確かに、企業全体の稼ぐ力を高めなければスタッフの給与を高めることなど不可能です。そこで当社では、3つの取り組みを進めています。
1つ目の取り組みは、「スケールメリットの追求」です。
当社は47都道府県でサービスを提供し、重度訪問介護の業界では最大手だと自負しています。そのため、小規模事業者に比べると圧倒的に経営効率が高いのです。今後も急ピッチで経営規模を拡大し、さらなるスケールメリットを目指します。
2つ目は「DXの取り組み」です。
実は2023年現在、当社の本社チームはほぼ全員がリモートワークで働いています。また、今後は介護施設の運営なども視野に入れているのですが、その際にはロボットやIoTなどを積極導入するつもりです。先端技術は介護の世界になじまないと考える人もいるようですが、私は反対です。スタッフの暖かな心遣いに加え、先端技術を活用した効率化を並行して進めることで、上質なサービスと高い利益率の両立ができます。
3つ目は、「研修の質を高める取り組み」です。
当社は「土屋ケアカレッジ」というヘルパー養成研修事業所を自社で運営していて、基礎的な研修から上級研修まで提供しています。こうすることで、未経験者でもスムーズに仕事が始められますし、より高度な知識やスキルを身につけてキャリアアップすることも可能になるのです。
――全くの未経験者でも、研修を受ければすぐ独り立ちができますか。
いいえ、そうではありません。研修で学ぶ知識やスキルも大事なのですが、現場で身をもって学ぶことはとても多いのです。そこで最初のうちは、先輩スタッフといっしょにOJT(実地訓練)を受けることになります。人によってOJTの期間は違いますが、未経験者の場合は50~100時間くらいは先輩について学びますね。未経験者が介護スタッフとして独り立ちするのは、だいたい、入社から1~2カ月くらいでしょうか。
――準備を整えてから本格的に仕事を始められるのは、スタッフにとっては安心ですね。
将来有望な重度訪問介護の分野で従業員に希望を与えたい
――重度訪問介護サービスの業界は、今後どうなるとお考えですか。
重度訪問介護へのニーズは大きいですし、サービスの認知度が高まれば、さらに利用者は増えるでしょう。また、介護分野の報酬単価は一般的に頭打ちの傾向ですが、重度訪問介護の報酬単価は毎回の改定で高まっています。そして、職場環境の改善やスタッフのキャリアアップの仕組みを整備するためにお金を支給する「介護職員処遇改善加算」でも、重度訪問介護の加算率は他の分野よりずっと高いのです。つまり、国もこのサービスがもっと広まるよう支援しているのです。業界自体の成長性は、かなり高いと思いますね。
――そうした中、高浜さんは「土屋」をどのような方向に導きたいですか。
47都道府県に事業所を置くことができましたが、これは途中経過に過ぎません。まだまだサービスの空白地帯は残されていますから、さらに事業規模を拡大して1人でも多くの方にサービスを届けたいですね。そのためには、現場で働くスタッフだけでなく、組織の中核として活躍できるリーダーも育てていきたいです。
また、高齢福祉分野や児童福祉分野にも積極的に進出する計画を立てています。重度障害者以外にも困っている人はたくさんいますから、幅広い分野で人々を支える「トータルケアカンパニー」になりたいですね。
――高浜さんが経営者として大切にしていることはなんでしょうか。
私はもともと、人権回復運動や介護・福祉に関わってきた社会活動家でした。重度障害者やその家族、現場のスタッフがどれだけ苦労してきたのか、この目でしっかり見てきたのです。その記憶と志を次世代に引き継いでいくことは、私自身に課された役割だと思っています。同時に、経営者である以上、売り上げと利益を高めることも大切にしています。
ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(雑多な人たちが互いの個性や価値観を認め合い一体感を得ながら働いている状態)も、当社にとって大切な指針です。私たちは多様な利用者の方に向けてサービスを提供していますが、自社に多様性がなくては説得力がありません。当社では女性役員の比率が30%以上に達していますし、脳性麻痺の役員も働いていますが、今後もさらに組織の多様性を高めたいと考えています。
――最後に、重度訪問介護に関心がある方や介護関係者の皆さんへのメッセージをお願いします。
介護の仕事に対し、3K(キツい・汚い・危険)というイメージを持っている方もいらっしゃると思います。しかし未経験で当社に入ったスタッフに聞けば、ほとんどの人が「イメージと実際は違った」と答えるでしょう。重度訪問介護の仕事は、もちろん簡単ではありません。ただ実際にやってみると、予想より待遇が良かったり、キツくなかったりするものです。業界未経験でも、臆する必要はありません。
既に介護業界で働いている方々には、当社で将来への希望を見いだしてもらいたいですね。介護業界の小規模事業者で働いている人の中には、キャリアアップが望めず、自分自身の可能性を諦めてしまっている人が本当に多いのです。でも「土屋」なら、努力次第で昇給や昇格が十分に期待できます。私たち経営陣も、皆さんが希望を持って働けるための環境作りを進めますので、ぜひ当社の門を叩いてみてください。