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【著者インタビュー】大量生産・大量消費はいらない――本当に必要なものだけを厳選して生まれるシンプルでエレガンスな暮らし

あなたの家の中に、不要なものはどれくらいありますか? 大量生産・大量消費の世の中、流行の過ぎたファッションアイテムや冠婚葬祭のいただきものなど、使わないものがあふれている人も多いでしょう。 ものを大切にするのは良いことですが、目に見えるところに不用品があると、日々の暮らしが落ち着かないものになります。 著書『本当に必要なものだけに囲まれる、上質な暮らし』を刊行した、株式会社センプレデザイン代表者の田村昌紀氏に、質のよい暮らしとデザインについて伺いました。
無駄なものや不要なものを持たない「上質な暮らし」の提案
――今回、著書『本当に必要なものだけに囲まれる、上質な暮らし』を刊行されたきっかけはどのようなものですか?
1996年に株式会社センプレデザインを設立してから、今年で25周年にあたります。節目の年にあたって、私たちの提唱する「暮らしの質を向上するデザイン」について、改めて世の中に発信したいと思いました。
私は若い頃から「暮らしとデザイン」をテーマに仕事をしてきたのですが、自分から積極的に「上質な暮らし」を提案していきたいと思って設立したのがセンプレデザインです。
当時はまだトータルにライフデザインを提案するようなお店は少なく、お客様は暮らしの道具を揃えるにあたって、家具店や食器店、インテリア店を自分で回らなければなりませんでした。
別々の店から統一したデザインを揃えるのは素人には困難です。そこで暮らしの空間をトータルコンセプトで提案するショップとして、センプレデザインを作りました。
――ライフスタイルショップの走りとして誕生したのですね。どのような暮らしを提案したかったのでしょうか?
センプレデザインのセンプレは、イタリア語で「日常的に」を意味する「SEMPRE」です。
この言葉はちょうど、私たちが大切にしている6つのコンセプトのSimple, Elegance, Mindful, Peaceful, Relaxing, Essentialの頭文字にあたります。どのような暮らしを大切にしたいかと考えている中で、こじつけではなく自然と社名が決まりました。
SEMPREな暮らしとは、書籍のタイトルにもなっている「本当に必要なものだけに囲まれる、上質な暮らし」のことです。
現在は、大量生産・大量消費社会を反省して、SDGs(持続可能な開発目標)や環境保護を大切に考えるような世の中なので、私たちの提案がより受け入れられやすくなっていると感じます。
自宅兼ショールームを通じてシンプルでエレガンスな暮らしを実際に見てほしい
――SEMPREというキーワードについて、詳しく教えていただけますか?
Simple(シンプル)とは、原点のことです。会社や商品を作るにあたっては、最初の思いが最も重要なのですが、そのうちにお客様の声を聞かなくてはとなったり、あちこちにしがらみができたりして、原点が見えにくくなります。ですから、最も大切なものは何ですかという原点に常に立ち返って、思いがぶれないようにしています。
Elegance(エレガンス)とは、美しさのことです。暮らしをデザインするときに、自分の好みや周囲の人の思いも大事なのですが、そうやっていろいろな意見を取り入れると全体としてごちゃごちゃしたものになりがちです。そこでトータルでバランスのとれた美しさが出るように常に留意しています。
Mindful(マインドフル)とは、暖かさのことです。生きていくうえでいちばん重要なのは人と人との間の信頼関係です。仕事でも家族でも、どれだけ心を開いて会話ができるか、暖かい心をもって暮らせるか、が人生では重要です。冷たくてとがったものにも価値はありますが、それが毎日の暮らしのなかにあったら快適とは言えないでしょう。
Peaceful(ピースフル)とは、平和のことです。家庭がどんなに暖かくても、一歩外に出たら争いばかりの冷たい社会であったら上質な暮らしにはなりません。人生の質を上げていくためには、社会の質も上げていくことが必要です。政治も、目先の利益ばかりでなく、50年先、100年先を見据えて平和な社会を作っていただきたいと思います。
Relaxing(リラクシング)とは、くつろぎのことです。住まいをつくるときには、家族がくつろげることがいちばん重要なので、いかに快適な空間を作るかを最初に考えます。日本の住まいは四角い部屋や2LDKの部屋割りなどの定番がありますが、それぞれの家族の個性に合わせてカスタマイズしたほうがよりくつろげると考えています。
Essential(エッセンシャル)とは、基礎のことです。建物を支える土台部分を基礎といいます。家庭でも人生でも社会でも、うわべは派手に見えても基礎をしっかりと構築していないと、いざ有事になったときにすぐに倒れてしまいます。基礎は外側からは見えないのですが、だからといって手抜きするのではなく、常に丁寧な仕事をすることを心がけています。
――上質な暮らしの提案のために、自宅をセンプレデザインのショールームとして公開していると聞きました。
通常の家具やインテリアのショールームは、きれいに配置してはありますが、実際にどのような暮らしになるのかイメージしづらいからです。
実際に私の自宅兼ショールームを訪れたお客様からは好評で、通常のショールームでは出てこないような突っ込んだ質問が出てくることが多いです。
自宅は、私自身が家内と2人の子どもと二匹の犬と暮らすためにデザインしたものです。すでに子どもたちは独立し家内も4年前に亡くなって、今は犬と一緒に暮らしているだけなので、誰に気兼ねすることもなく公開できます。
光の入り方、風の入り方、生活の動線までこだわってデザインしたものであり、自分が本当に好きな家具や食器や家電製品だけを置いているので、ショールームというより暮らしをテーマにした表現の場と考えています。
常に整理整頓を欠かさず、暮らしを整えることで人生の質が上がる
――大量生産、大量消費が当たり前の社会では、センプレデザインのようなビジネスは難しいのではないでしょうか?
確かに簡単ではありません。センプレデザインも昔はかなりの店舗を持っていたのですが、不特定多数のお客様に向けてオープンしていると、どうしても大量生産の安価な製品に競争で負けることが多くなります。
そこで現在は、実店舗は池尻大橋のフラッグショップだけにして、ウェブでの販売に力を入れています。
私たちのお客様は、シンプルでエレガンスな暮らしというキーワードに反応していただける方だったり、本当にデザインが好きで家具や日用品にこだわりがある方だったりで、その数は決して多くありませんが、熱意はとても高いです。そのような方々にピンポイントで作り手の思いを届けるためには、実店舗よりもウェブのほうがよいと判断しました。
――広告宣伝などで露出を増やして大量販売するのではなく、少数でも熱心なお客様とつながりたいのですね。そんな田村様が仕事をするうえで大切にしているのはどのようなことでしょうか?
センプレデザインのお客様には個人と企業とがありますが、どちらに対しても私が大切にしているのは信頼関係です。私の仕事はお客様の問題解決をするためのサポートです。
問題というものは一度や二度ですべてが解決するわけではないので、何十年という単位で長期的にサポートすることを念頭に仕事をしています。そのため一業種に一社と決めて、お客様のライバル企業からの仕事は受けません。企業とのお付き合いは、いちばん長いところでは50年以上になります。
――最後に、本書の対象としている読者に向けてのメッセージをいただけますか。
この本は「日々の暮らしを上質にしたい方」に読んでいただきたいと思っています。「上質な暮らし」とは、ひとことでいうと「バランスのとれた暮らし」です。
私たちは日々の暮らしにおいて、仕事にのめりこみすぎて家庭をないがしろにしたり、逆に子どもに過干渉なのに社会には無関心であったりと、バランスを失うことがよくあります。常に「バランスのとれた暮らし」を意識することで、自分を見失うことなく落ち着いて生きていくことができます。
具体的な指標でいえば、家の中に余分なものを持ちすぎている人はバランスを崩しているかもしれません。冠婚葬祭の引き出ものとか、100円ショップで衝動買いしたものとか、家の中を見回してみると、本当は必要のないものが意外と多くあります。
自分が本当は好きではないものが家のなかにたくさんあると居心地が悪いので、暮らしの質が落ちてしまいます。逆に、自分の好きなものだけに囲まれるようにすると、暮らしは快適になります。
日本では収納の中にものが収まればOKだと考える人もいますが、センプレデザインと関係の深い北欧では見せる収納が基本です。好きなものは常に目につくところに置きたいので、そもそも不要なものは収納すらせずに、常に整理整頓を心がけて住まいをデザインしていくことが「上質な暮らし」をおくる秘訣です。