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【著者インタビュー】白内障手術の不安や術後のトラブルに悩む人を減らし、医療機関側と患者の間のギャップをなくすために
白内障の手術は、加齢などによって濁ってしまった水晶体を除去し、代わりに人工の水晶体=眼内レンズを挿入する手術です。ところが、せっかく手術をしたにもかかわらず、「思っていた見え方と違う」という事態に陥り、不安を抱えてしまう場合が少なからずあるようです。 なぜそうしたトラブルが起こっているのか、また、そうならないためには何に注意をすべきなのでしょうか。『嘆く白内障患者たち』の著者であり年間約1,000件以上、累計1万件以上の白内障手術実績を持つ眼科医の山口大輔医師にポイントをお聞きしました。
「こんなはずじゃなかったのに」と思う人を減らしたい
――著書『嘆く白内障患者たち』刊行のきっかけをお聞かせいただけますか?
白内障手術について触れた本はいろいろありますが、その多くはあまりにメリットばかりが強調され、手術前に知るべき情報がきちんと語られていないこともあるのではないかと思ったのです。
実際に外来で相談をお聞きしていると、白内障の手術を受けたにもかかわらず、術後に不具合を感じるという人が年々増えているように感じます。
もちろん「よく見えるようになった」と喜ぶ人のほうが多いですが、せっかく手術の決断をしたのに「こんなはずじゃなかったのに」と不安や戸惑いを感じる人がいなくなってほしいと思ったのが本を書いたきっかけです。手術の後に辛い思いをされた患者さんの声を反映させた本ですので、『嘆く白内障患者たち』というタイトルにしました。ネガティブな印象を感じるかもしれませんが、内容はこれから白内障手術を考えている人には後悔のない白内障手術が受けられるように、また、すでに白内障手術を受け終え見え方がよくない人には諦めないで済むようなポジティブなものにしたつもりです。
――手術後の不具合というのはなぜ起こってしまうのでしょうか。
どんな手術でもリスクがゼロということはありません。何かしらの合併症で経過がよくない場合もありますが、手術自体がうまくいっても、眼内レンズの選定がうまくいかず、術後の見え方が思ったようでないという不具合が生じることがあります。眼鏡やコンタクトレンズをつくるときは、視力を測定し、度数にあわせて何度も試しがけをして、ご自身で見え方を納得した上で「これがいい」と思うものを選ぶことができます。
しかし白内障手術の場合、そうはいきません。もちろん検査データから眼内レンズごとに、どんな見え方になるかを導き出す計算がありますので、患者さんの見え方の希望のイメージを聞き、レンズの種類と度数を決めますが、あくまで計算とイメージでの選定になり、実際にどう見えるかは、手術の翌日に眼帯を外すまで分かりません。これが白内障手術の難しいところで、手術後の見え方の不具合につながる理由がここにある訳です。
白内障の手術は、濁ってしまった眼の中のレンズを取り替える唯一の治療法
――そもそも白内障とはどのような症状なのでしょうか。
年齢を重ねると「目がかすむ」「まぶしい」「暗くなるとものが見えにくい」などの症状がおこります。これらは白内障の三大症状ですが、程度の差はあってもほとんどの人に発生するようになります。
眼の中には、カメラでいえばレンズの役割にあたる「水晶体」という部分があります。私たちがものを「見る」というのは、水晶体の働きで眼の奥の網膜に像を結ぶことで、色や形が理解できているわけです。ところが加齢などによって水晶体が濁り、さらには硬くなってしまうために、ものが見えづらくなってしまうのです。
――白内障の手術は、この「レンズ」を変えるものなのですね。
そうです。にごってしまった水晶体を取り出し、そのかわりに人工の水晶体、つまり「眼内レンズ」を入れる手術です。現状ではこれ以外に白内障を治す方法はありません。
手術といっても、ほとんどの場合10分ほどで終わるもので、通常は入院も必要ありませんし、かなりポピュラーなものになってきています。
ただし、残念ながら近くも遠くも自在に焦点を合わせられる若い頃の人の眼のしくみを完全に再現できるわけではありません。手術後のトラブルには合併症などさまざまな要因があるものの、見え方の不具合で一番多いのは「眼内レンズ選び」に問題が多いと思います。
すべての人に合うレンズはなく、希望や生活スタイルに合わせて選ぶ
――先生のところには他の医療機関で手術を受けた後に相談にこられる人もいらっしゃるようですね。
手術後に不具合を感じる患者さんのお話をお聞きしていると、手術前に眼内レンズを決めるためのカウンセリングに力を入れている先生もいれば、そうではない場合もあることがわかってきました。
また、レンズには国内外に複数のメーカーがあり、性能の異なるさまざまなレンズがありますから、1つの医療機関で扱うレンズが限られる場合もあるでしょう。
さらに患者さん側も、見え方についての知識やイメージを持てていなかったり、あるいは医師のほうがそれをくみとれていなかったりする場合もあって、患者さんと医療者側のギャップができてしまっていることが問題ではないかと感じています。
――「レンズ選び」のポイントはどのようなところですか?
ポイントは大きく分けて3つあります。
まず1番目は、レンスを「多焦点」にするか「単焦点」にするかです。これを決めるには、術後に眼鏡をかけてもよいか、かけたくないかの希望が大きなうウェイトを占めますが、多焦点レンズの見え方のデメリット面を許容できるか、また、単焦点レンズは完全に保険治療ですが、多焦点レンズはレンズ代が自己負担になり手術費用が高額になりますので予算面も考慮する必要があります。
2番目に単焦点レンズの場合は、ピントの位置を決める必要があり、遠方にするか近方にするか、またその間くらいにするかを、自分の生活スタイルに合わせ決めることがとても重要です。注意点としては、2m程度でも遠方の範囲に入り、近方というのは30cmが一般的です。医師と患者のイメージの差がある場合もあり、『家の何m先にあるテレビを見えるようにしたい』とか『本や新聞を裸眼で見たい』などと具体的に医師に伝えるとトラブルが減らせるかと思います。
3番目は多焦点レンズを選択する場合は、そのデメリットを理解する必要があります。遠くも近くもあまり眼鏡なしで見えるようになる便利なレンズですが、光を分ける構造により、くっきり度合いが落ちるコントラスト感度の低下や夜の光を見ると、輪が見えたり、光の輪郭が滲む異常光視症という現象などの副症状が現れます。許容できる場合が多いですが、100人に1人程度は多焦点レンズが合わずに単焦点レンズへ入れ換えが必要になる場合があります。
単焦点レンズでも多焦点レンズでも、よいところもあれば、弱いところもあるため、レンズの特性を理解し自分に合うタイプを選ぶことがとても重要です。書籍の中では、最近登場した多焦点に近い機能を持った新しいタイプの単焦点レンズや乱視を矯正するトーリックレンズなどについても触れていますので、参考にしていただきたいですね。
――状況によってやり直し(リカバリー)の手術を行うこともあるのですね。
術後の見え方に不具合があれば、当然、やり直しの手術を考える必要がありますが、患者さんの声を聞く限り、主治医に訴えてもやり直し手術どころか、その相談すら受けてくれないという現状もあるようです。私のクリニックには、受け入れ先がなかなかみつからず遠方から来院される患者さんもいらっしゃいますが、外来で相談をお受けし、眼の状態をみて、不具合がレンズにあり、レンズの種類や度数を変えることで問題を解決できる見込みが得られれば、レンズを入れ換えるなどの白内障手術のやり直し(リカバリー)を行っています。
1人ひとりの状況に応じて「オーダーメイドの治療」を行う
――山口先生のクリニックでは、どのような点に力をいれていらっしゃいますか?
私どものクリニックでは、最初の初診から手術の前の説明、手術後の診察まで、私がすべて責任持って担当しています。「オーダーメイドの白内障治療」を目指し、見え方の希望や生活スタイルのヒアリングを大切にしていますので、レンズ選びでは専門のスタッフが患者さん一人ひとりの細かい話を聞いてアドバイスをし、最後には必ず私が話をして手術の前にレンズの最終決定を行います。
――患者にとって不安や悩みが解消したり、よく見えるようになることは大きな喜びでしょうね。
患者さんの求めに応じて医療を提供するのは当然のことですが、喜んでいただけるとそれはやりがいにもなりますね。「来て良かった」とか、「話を聞いてもらっただけでよかった」と言っていただくと嬉しく思いますし、多くの方の力になりたいと思います。むしろ患者さんに力をいただいているように感じることもあります。
――トラブルを減らすためには、医師選びも重要だと感じます。
医師の私が言うのはおこがましいことですが、白内障手術で最も重要なのは眼内レンズの選択ですので、手術の前によく話を聞いてくれて、レンズ選びの相談に乗ってくれる医師に手術をお願いすることが大切だと思います。また、トラブルを起こさないように努力することは当たり前で、もし、不具合が起こってしまった場合でもアフターフォローをきちんとしてくれる医師であればより安心だと思います。
――最後に、白内障手術に関して悩みを抱える人へメッセージをお願いします。
手術ともなると、不安や迷いがあるのは当然だと思います。
書籍には、これから白内障手術を受ける人が後悔することのないように、そして手術を受けたものの、その後が思わしくない人が諦めなくてすむような内容になるよう心がけました。
不安やトラブルがあるなら、一人で悩まずに専門家にしっかり相談をすることが大事ではないかと思います。それが主治医の先生であればベストですが、必要に応じて誰かに頼るのも大事なことではないかと思いますので、解決方法を探してほしいと思いますね。