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【著者インタビュー】誰でもかかる「うつ病」――早期発見・早期対処で、自分らしい生き方を取り戻そう
うつ病は「心のかぜ」と言われるほどにかかりやすいものですが、実際になるとかぜよりもはるかに辛く、あなたの人生を壊す危険があります。 うつ病にかかりそうになったら、早めに気づいて対応することで、こじらせることなく治すことができると専門家は指摘します。 このたび書籍『知っておきたい「うつ」の真実』を刊行した、「しのだの森ホスピタル」の信田広晶院長に、うつ病の正しい知識を教えていただきました。
「うつ病」ってなに? 誰でもかかるの?
――うつ病という言葉はよく聞くのですが、はっきりと説明できる人は少ないような気がします。気分が落ち込むことは誰にでもありますが、それとうつ病は違うのでしょうか?
気分が落ち込むのは、かぜの初期に体がだるくなるのと同じで、うつ病になる兆候です。しかし、明確にうつ病にかかっている人は、通常とは明らかに違う状態になります。
ものの見え方や感じ方がマヒしたようになって、自分と世界との間に膜があるように感じます。外の世界で何かが起きても心も体も反応しなくなり、世の中から取り残されているような感覚になります。
――患者さんの感じていることを医師が外から診察してわかるものなのでしょうか?
心の病は、かぜや炎症のように、体温を測ったり血液検査をしたりすることでわかるものではありません。
経験を積んだ医師であれば、患者さんの生気感情を見ることでだいたいわかりますが、人によって診断が異なることもよくあるので、うつ病が疑われるときには、複数の医師に診てもらうことをすすめています。
――診断が難しいと言われると、どの医師を信じていいのかわからなくなります。適切な病院の選び方などはあるのでしょうか?
そもそも心というものは、100人いれば100人それぞれで違うものです。ですから、どのような状態がうつ病であるかも人それぞれで違っていて、治療にあたっても相性の良い医師と悪い医師がいます。
私が医師になった頃に比べればメンタルクリニックの数は非常に多くなっているので、やはりいくつかのクリニックに行ってみて自分に合った医師を探すのがよいでしょう。
私の治療では、うつ病だからといって誰にでも同じ薬を出すのではなく、その人がうつ病になった経緯や本来の幸せを感じる気持ちを大切にしたいと思っています。
カジュアルなイメージだけど、本当は怖い「うつ病」
――自分がうつ病にかかっているかどうかは、どのようにしてわかりますか?
うつ病は、自分では気づきにくいものです。自分は強いから心の病にはかからないと感じていて、症状を否定する人が多いからです。おそらく、心の病に対する偏見などがまだ残っているのでしょう。
また、うつ病の初期症状は体の変調として出てくるので、最初に別の科を受診して「検査をしたけど何も見つかりませんね」などと言われてそのままになることがよくあります。
――だとしたら、患者さんはどうやってメンタルクリニックにたどりつくのですか?
家族や職場の同僚、いつも身近にいる人が異変に気づいて受診をすすめるケースが多いですね。反応が鈍くなった、表情が乏しくなったなどの変化は、自分よりも他人のほうが気づきやすいのです。
たいていの人は、多少気持ちの変化があっても自分は自分であると疑わないものですが、他人から見ると「あの人は変わった」とわかります。
一人暮らしで他人とかかわることが少ない人は、気づかないうちにうつ病をこじらせることが多いので、注意が必要です。
――うつ病をこじらせると、どのようになってしまうのですか?
かぜも同じですが、うつ病も初期のうちであれば、適切な少量の薬を飲んだり、適切な環境調整で心と体をゆっくりと休めて、うつ病の原因となった恐怖感や不安感などを取り除いていけば、わりと簡単に治ります。
しかし、こじれたり慢性化したりすると、たとえ適切な薬を飲んだとしてもすぐに治るものではなくなります。生活習慣も含めて正しいリハビリを行い、心と体のリズムを整えて、自分自身と向き合いつつ自尊感情や自己効力感を回復させなければなりません。
「しのだの森ホスピタル」では、そのような患者さんのために、うつ病の入院病棟を用意しています。「あなたはうつ病だから休んでください」といっても、現実は家にいれば仕事も家事も休めない人が多いので、入院してもらうことで確実に心を取り戻すようにしています。
――うつ病の入院施設があることは初めて聞きました。よくあるのでしょうか?
あまり多くないと思います。必要ではあるのですが、実現しようとすると人手も場所もかかります。初期のうつ病は外来診療だけで治ることも多いので、入院施設はいらないという人もいます。
たしかにうつ病はすぐに対処すればそれほどやっかいな病ではないのですが、気づきにくいため初期対応ができないことが多いのです。なんとなく体調が悪いと思って病院に行っても、メンタルクリニックでなければ別の病名がつくことが多く、うつ病の治療をしてもらえません。
うつ病の方が病院に行って、初回で適切な治療を受けて治る割合はだいたい3分の1と言われています。3分の2はこじらせて慢性化しているのです。慢性化したら薬だけでは治せないので、入院施設のような安全な環境で、折れてしまった心の治療をする必要があります。
――うつ病がひどくなると、どのような症状が起きるのでしょうか。
うつ病を長期にわたって治療せずに放っておくと、厭世的になって自殺することもありますし、躁うつ病のようなもっと重い精神病に発展するケースもあります。
一人暮らしの方が、気力がなくなって寝たきりになって、餓死したという話もあります。そのような人を一人でも減らしたいので、少しでもおかしいと思ったらすみやかにメンタルクリニックを受診してほしいです。
心の病を治すためにスピリットに働きかける
――そもそも信田先生はなぜ精神科医を志したのでしょうか?
私はもともとジャーナリスト志望で、大学も文学部に入学して、卒業後は報道関係の会社で働いていました。そこで戦時下やへき地の医療崩壊に興味をもち、自分に何ができるかと考えて、医学部に入りなおして医師になったのです。
医学生時代にボランティアで海外の紛争地域の支援に行き、体の治療だけでなく心の治療も行わないと患者さんは幸せになれないと気づいたことがきっかけとなり、精神科医を志望しました。
――社会人から医師を目指した方は高いモチベーションをお持ちだと思います。自分の病院を持ったのも、従来の病院に飽き足らなかったからでしょうか?
「しのだの森ホスピタル」は、もともとは私の父がつくった病院です。父は精神科医で、後継ぎは別にいたので、私は自由にさせてもらっていたのですが、結局は後を継いで、いまは院長と理事長を兼務しています。
そういう経緯がなかったとしてもおそらくどこかで独立していたと思いますが、いろいろな事情で父の病院を継ぐことになりました。とはいえ、父の頃は昔ながらの精神病院だったので、いまとはまったく違うものでした。すでにある制度や文化を変えるよりも、自分で一から作るほうが簡単だったかもしれません。
――「しのだの森ホスピタル」の特徴を教えてください。
いわゆるホリスティック医療を行っています。
ホリスティック医療とは、病を治すのは患者さんの持つ自然治癒力であり、医師は援助をするだけであるという考え方にもとづく治療です。そのために、心と体の根底にある霊性――その人らしさを最も大切にしています。
霊性は英語でスピリットといい、魂と訳されることもあります。
――スピリットや魂を信じない人もいますが、なぜ霊性を大切にしているのでしょうか?
体の病であれば、科学で治療することはできます。しかし、心については現在の科学はまだほとんど解明していません。そのように何もわかっていないものに対して科学だけで治療を試みるのは逆に恐ろしいことです。
「プラシーボ効果」の存在が科学的にも示されているように、人間の心には自然治癒力がたしかにあります。私たちはそれを霊性と呼んでいます。
もちろん体の病、たとえばガン患者が自然治癒力だけでガンを治そうとしてもなかなか難しいでしょう。それでもガン治療だって科学だけでなく心に対してもアプローチをしたほうが患者さんの人生は確実に幸せになります。
医療というものは体を治すだけでなく、心と体を合わせたその人らしさを取り戻すものだと考えるのがホリスティック医療です。
――書籍『知っておきたい「うつ」の真実』はどのような人に読んでもらいたいですか?
うつ病の治療をずっと受けているのによくならないとあきらめている人、何もできない人生に慣れちゃっている人に、自分を立て直すきっかけや機会をつかんでほしいと思って書きました。そういう人たちがこの本を読んで、再び自分らしく生きられるようになってくれればうれしいです。