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『25 歳ではじめた長崎のベンチャー企業が世界で注目されるようになった理由』著者・吉岡拓哉氏が語る、「地方起業」成功の極意とは
2020年に全国の20代男女におこなったマイナビのアンケート調査によれば「独立・開業に興味がある」人の割合は男性で57.4%、女性で40.1%にのぼりました。 世はまさに起業ブームといえるかもしれません。 2023年3月に刊行された『25 歳ではじめた長崎のベンチャー企業が世界で注目されるようになった理由』は、ピンチヒッタージャパン株式会社の創業史です。 スタートアップ企業の多くが東京に集中するなかで、地方都市での20代での起業は困難の連続でした。発刊を記念して、吉岡拓哉社長に本の内容や読みどころをお話していただきました。
10年で94%が廃業する起業の世界に飛び込んだ理由
――今回、『25 歳ではじめた長崎のベンチャー企業が世界で注目されるようになった理由』を刊行したきっかけを教えてください。
本のタイトルにもあるように、私は25歳で起業して今年で10周年を迎えます。10年というのは個人的に非常に意識してきた数字です。というのも、創業当初に資金がなくなってしまい、起業生存率を調べたところ10年で94%が廃業すると書いてあったからです。
その数字に衝撃を受けて、もっと攻めなければ生き残れないと思いました。共同創業者の副社長に「失敗したらホームレスになるから、駅で見かけたら飯をおごってね」と冗談を言っていたのもその頃です。
あれから10年間、毎日必死にお客様に向き合い、社員に向き合い、資金繰りと向き合い、また会社全体のブラッシュアップを行なってきました。それを長崎というローカルの地でやれたということに誇りがあったので、10周年の節目に本として残しておくのが良いかなと思いました。
――そもそもなぜ起業をしようと思ったのでしょうか?
最初に思ったのは大学生の頃です。
私は長崎出身で地元の大学に進学したのですが、その大学には2種類の学生がいたました。
一つはバンドとかダンスをサークルでやっているのだけど、発表する場所がないとなげていている学生。
もう一つは、地方都市で歴史の浅い大学であったため、イベントなどが少なくてつまらないとこぼしている学生です。
この二つをマッチングさせれば両方の不満が解消できるのではないかと思い、イベントを企画して、サークルの人たちにはライブステージを、つまらないと言っていた人たちには大規模な飲み会の場を提供しました。
それをきっかけに、学生時代にさまざまなイベントを実施しました。その時に感じたのは、若い人が一生懸命にやっていると多くの大人の方が協力してくださるということです。それだったら、若い人たちで凄い会社を作りたいと思うようになりました。
若いうちに起業するメリットとデメリット
――なぜすぐに起業せず、一度就職をされたのでしょうか?
社会勉強をしたかったからです。
学生からそのまま起業してもうまくいかないと思いましたし、両親をはじめとして周囲の人も応援する雰囲気にならないと思いました。周囲の人を説得するためにも社会人経験を積む必要があると思いました。
そこで美容商材の卸売会社に就職しました。本社は福岡ですが長崎での配属です。
仕事内容は美容室への営業ですが、美容室のオーナーに商品を気に入ってもらうだけでは継続的な受注は難しく、マーケットの状況を見ながらエンドユーザーにも刺さる営業活動をおこなわなくてはいけないと学びました。
仕事の本質はオーナーに気に入ってもらうことではなく、その美容室に来ている顧客に商品を気に入ってもらうことだったのです。
そのためには口先だけでオーナーに気に入られても意味がなく、実際に顧客に接するスタッフ全員の協力が必要でした。そこでPOPなどを作成したり、朝の時間にスタッフに向けての勉強会を企画したり、顧客に向けてアピールできるよう努力しました。
その成果もあって営業成績があがり、物事の本質を見極める力がついたと思います。就職して社会人を経験してよかったと思います。
その会社は営業だけでなくシステマチックに会社全体で事業を作っていたので非常に学びになりました。弊社でも創業期から広報や人事などの各部門を配置したのは、会社勤めを経験したことがきっかけになっています。
――3年後に退職して起業したとのことですが、なぜそのタイミングだったのですか?
前に述べたように、もともと若いうちに起業したいと思っていたからです。
ですから働きながら週末を使って起業の準備をおこなっていたのですが、そのうちに平日も起業のために使いたくてたまらなくなり、3年で辞めさせていただきました。
当初は、学生時代に成功したイベント事業をやろうとしたのですが、思っていたように集客ができず、創業期はかなり苦労しました。一か月で開業資金はなくなり、電気やガスもたびたび止められ、真冬なのに水のシャワーを浴びなければなりませんでした。
会社を辞めるとき、上司に「世の中はそんなに甘くない、お前のためにも辞めさせない」と言われたとおりでした。
しかし辞めずに30代になって分別がついてしまったら、逆に起業しなかっただろうと思います。若いからこそ、起業が大変なことだと思わずに、自分たちでもできるのではないかと飛び込めたのです。
いま振り返れば本当に甘ったれた考えだとは思いますが、なんとかここまで成長できたことは良かったと思います。
「余っている在庫をすべてまとめて買い取ります」で飛躍
――経営が好転したのはいつ頃だったのでしょうか?
創業3年目の頃ですね。当時はLED照明の代理販売がメイン事業で、副社長と二人で地元のさまざまな店舗に営業に飛び回る日々でした。
しかし営業が一巡してしまえば受注が頭打ちになることが見えていたので、次のビジネスも模索していました。
ある日、個人経営のスポーツ用品店に飛び込みで訪問営業したところ、10年以上前の野球グラブを半額で売っているのが見えました。なぜそんなに古いものを売っているのかと聞いたところ、在庫が多すぎるから新しい商品を仕入られないんだとの答えでした。
そこから生まれたのが、私たち PINCH HITTER JAPAN株式会社 (ピンチヒッタージャパン)の社名の由来ともなった、野球用品の在庫一括買い取りからのネット販売業務でした。
スポーツ用品店の悩みは全国共通で、どこのお店も古い在庫に悩まされていました。このビジネスが成長し、弊社は一気に業績を拡大しました。
――PINCH HITTER JAPAN株式会社 (ピンチヒッタージャパン)では現在のどのようなビジネスを展開しているのでしょうか。
現在、弊社では大きくわけて2つのビジネスを主力としています。
一つは、さきほどもお話したように企業が抱える滞留在庫を一括買取して再度流通させるビジネスです。
もう一つは、在庫だけでなく事業そのものを売却したいというニーズがあったので、事業をいったん弊社が買い取って他社に販売するビジネスです。
どちらも以前からあったマーケットですが、前者は全量一括買い取りでなく売れそうなものだけを部分的に買い取ることが多く、後者はM&Aがメインで時間がかかりました。
しかしお客様が望んでいるのは早期にまとまった資金を手に入れることなので、それでは本質的な改善になっていないと感じました。そこで弊社では、最短2営業でお買い取りをさせていただく、スピーディなビジネスモデルを作り込んでいきました。
ATARIMAEを疑うことで新たなビジネスを誕生させるという理念は、弊社の大きな強みになっています。
顧客満足度を上げたければ、接客する従業員の満足度を上げよ
――オフィスの2階にバーを設置して無料で飲食できるようにしたり、従業員同士の飲み会の費用は会社で負担したり、ユニークな福利厚生制度はどうして生まれたのですか?
これは創業当初からの思いですが、弊社では社員に真っ先に豊かになってもらいたいと考えています。
多くの会社は「お客様ファースト」を唱えますが、現場の人が労働環境に対して不満を持っている状態では、お客様のことまで十分に考えられないものです。
そこで、弊社では「社員ファースト」でまず社員を豊かな状態にします。そうすれば顧客に対する姿勢や、サービスを伝える際の言葉がシンプルに変わってくると思ったからです。
まず社員、経営層は最後であると役員には常々言っています。
従業員満足度に徹底的にこだわった結果が、本社は長崎なのに東京と同じ給与相場とか、飲み会手当やランチ手当やお洒落手当・美容手当といった制度になりました。
このこだわりはブランディングや採用面にも良い影響を与えました。クチコミやメディアの取材などで、非常に多くの求職者の方々が面接に来てくださるようになったのです。
――最後に、起業志望者へのメッセージがあればお願いいたします。
起業って本当に大変なことだと思います。
創業して最初の5年間、25歳から30歳まではプライベートはほぼ諦めて、自分の時間のすべてを仕事に使っていました。30歳になった時には状況が変わっていると信じていたからできたことです。実際に5年が経過した頃には、同じ歳の人が経験できないようなことを多く経験して大きく成長できました。
しかし、24時間365日経営者でいると、自分自身の持って生まれた性格や嗜好を殺さなければいけない場面が多く、そこは難しかったです。当時はプライベートで付き合っている人達とどうやって話せばいいかわからなくなったりもしていました。それが一番キツかったですね。
とはいえ起業して成功すると、自分自身のみならず自分にかかわる多くの方を豊かにすることができます。経済的な面だけでなく、世の中に貢献できたと実感できます。
多くの課題を解決することは大変ですが、だからこそやりがいがあります。9割は苦しさですが、残りの1割には起業しなければ味わえない喜びがあります。
私自身まだ成長途上で偉そうなことを言える立場ではありませんが、頑張ってほしいと思います。