[PR]
【著者インタビュー】脂肪肝は“症状のない肝臓病”。患者さんの意向をよく聞きながら、最良の治療法を一緒に探していく。
肝臓に脂肪がたまり、ときに肝硬変や肝がんに至ることもある脂肪肝。 かつては「たかが脂肪肝」ととらえられていましたが、現在はお酒を飲まない人でも起こることがあり、生活習慣病を伴うことも多いことから、そのリスクが危険視されています。 正しく恐れ、予防するにはどうしたらよいのか。 みなと芝クリニックの川本徹院長に、ときに死にもつながる脂肪肝のポイントと注意すべき点をお聞きしました。
数値に表れていなくても画像でみるとうっすらと肝臓に脂肪が溜まっている
――脂肪肝は気づかないうちに起こっているそうですが、先生が危機感をもたれた最初のきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
以前より、健診に携わっていたことがあり、お酒をそれほど飲まない人でもγGTPなどの数値から脂肪肝が疑われる人が多いことに気づいたのです。
人間ドックの場合にはエコー検査が追加されるのですが、数値の上では問題がない場合でも、画像でみると脂肪がうっすらと肝臓に溜まっていたりします。30代ぐらいの若い世代の人にも多く、意外に思ったのが最初のきっかけです。
――検査の数値だけではわからない場合もあるのですね。
ごく初期の段階では数値にもほとんど異常は出ないため、「症状のない肝臓病」というのが実体です。肝臓はよく「沈黙の臓器」とよばれますが、自覚症状が出た段階ではかなり進行しているという場合も多いのです。
40年ほど前、私が医者になったばかりの頃、脂肪肝とは肥満気味でお酒を飲む人に起こるものだととらえられていました。当時はそれほど重要視されておらず、指導としても「ちょっとダイエットしなさい」という程度でした。
でも現在では脂肪肝がさまざまな生活習慣病のリスク要因になることがわかってきています。しかしながら健診でいくら危険性を指摘しても、患者さん側はなかなか危機感をもってもらえません。早期には自覚症状がないので無理もないのですが、やはり医師の側から伝えていく必要があると感じました。ですから著書もその手立てのひとつになればと思っています。
――脂肪肝の原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
脂肪肝は、肝臓の細胞に中性脂肪が溜まり、それが30%以上になった状態だと定義されています。
原因によって飲酒の習慣が原因になるアルコール性と、飲酒以外の非アルコール性に分かれます。近年、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/ナッフルディー)が注目されており、NAFLDの患者数は1,000万人から2,000万人にも達すると考えられています。
NAFLDの一部はやがて非アルコール性脂肪性肝炎(NASH/ナッシュ)に移行し、そこから肝硬変や肝がんにつながることがあります。また脂肪肝は、さまざまな生活習慣病を合併することも多いのです。放置すればそれらの合併症により死につながる場合もあり、著書のタイトルに「死」を入れたのもそのためです。
お酒が好きで焼き肉をよく食べる人、甘いものに目がない人に多い
――実際どのような人が脂肪肝を発症しやすいでしょうか?
統計上ではやはり肥満の人に多くみられます。糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病、あるいはメタボリック症候群の人が脂肪肝を伴うケースがよくあります。
ただし始まりの段階では、血圧も正常、コレステロールや中性脂肪が高いかなという程度で、まだメタボリックシンドロームの基準にもあてはまらないという人にも脂肪肝がみられます。
食生活の傾向でいうと、お酒をよく飲む人、焼き肉をよく食べる人、お酒を飲まなくても甘いものが好きな人などです。
もちろん同じような食生活を送っていてもならない人はいます。そこには運動量とか基礎代謝量の違いがあると考えられ、一部ですが遺伝的な要因が関係している場合もあります。ただし痩せていても脂肪肝になる人もいますので注意が必要です。
――セルフチェックにはどういう意識を持っていたらよいでしょうか。
さまざまなケースを踏まえると予防のしようがないと思ってしまうかもしれません。それでも健診で「肝機能異常がありますよ」とか、「メタボ気味ですよ」と言われたら、その時点で注意する必要があります。
数値上で異常があれば、その改善が最優先。対策には日常的に食事・運動療法に取り組むことが大切だといえます。
著書には生活習慣や年齢、病歴などのチェックリストを挙げています。あてはまる項目が多い場合や日頃から仕事上の付き合いが多いと思ったら、ぜひ医師に相談して肝臓の検査や精密検査を受けるきっかけにしてもらえればと思います。
――具体的な食事療法のポイントとはどのようなものですか?
すでに受診している方は、主治医のアドバイスに従っていただきたいのですが、食事では糖質を減らすこと、つまり炭水化物の量を抑えることが重要です。
習慣的に摂っているご飯やパン、麺類など炭水化物の量を半分ぐらいにすることです。よく低糖質のダイエットで20%まで減らすとか、あるいは0にするという人もいますが、あまり減らしすぎるのはかえって体に良くないということがわかっていますし、無理な目標はストレスになってしまいます。
またデザートを楽しみにしている人もいらっしゃるでしょう。その場合も半分を目安にすると達成しやすいと思います。
――運動療法はどの程度行うのがよいでしょうか。
ここ数年、「テレワークが増えたことで運動しなくなりました」とおっしゃる人が多いですが、室内で腹筋やスクワットを行うことでもいいのです。
これは当院が提携しているライザップで私自身も体験してきたのですが、少し汗ばむくらいの運動を週3回、約30分間の運動をすることでかなり違います。3回が難しいなら2回でも。続ければ筋力もつきますし、体重も減るでしょう。それくらいならできそうだと思いませんか? 屋外で行うならウォーキングもいいですよ。
継続して運動を行うことで、たとえ体重が減らなくても脂肪肝の改善につながったという報告もあります。
問題がみつかったら決してそのままにしてはいけない。リスクがあれば早めの対応を。
――もし症状が進んでしまったら、やはり改善は難しくなるのでしょうか。
NASH(ナッシュ)の状態から肝硬変に移行してしまうと、根本的な治療法はないのが実情です。硬くなった肝臓の組織は元の状態には戻らないからです。
これまで日本では脂肪肝よりもB型肝炎、C型肝炎の問題が深刻だとされてきましたが、肝臓の炎症と発がんの関係についての研究はかなり進んでおり、早期に発見して適切な治療を受ければ、治すことができるようになってきています。
――将来的には再生医療というのも治療手段のひとつになるのでしょうか。
肝炎も炎症の一種ですから、とくに慢性的な炎症を抑えることが必要になります。昨今ではごく一部の再生医療機関で幹細胞を使った再生医療も始まっているようです。
炎症によって線維化を起こす組織に働きかけて肝機能を改善することを目的としていますが、まだデータも少ないため、今後の可能性も含めて総合的に検証していく必要があるといえます。
――先生ご自身も以前から脂肪肝があり、近年はご病気をされたそうですね。
実は20歳頃、別の病気の診断の際に脂肪肝があることもわかっていました。でも当時は水泳部に所属しており、よく運動していたので大丈夫だといわれていました。
でも医師になると多忙なスケジュールを送るようになり、食事の時間も不規則にならざるをえませんでした。夜遅くに食べることも多く、だんだんと太ってきたんです。
その後、一時は研究生活となりましたが、それもまたストレスの多いもので、再び医師に戻るとまた激務に。中性脂肪が高いこともわかっていましたが、結果的に2021年に心筋梗塞の発作を起こしてしまったのです。恥ずかしいことですが、まさしく医者の不養生といえるでしょう。
やはり検査結果を甘く見てはいけないのだと実感しています。とくに30代~40代で指摘を受けても放置している患者さんをみると、リスクが高くなりますからなるべく早いうちに対応したほうがいいと話しています。
――脂肪肝に関して相談したい場合、地方ならどのようなところで診察を受けたらいいでしょうか。
なるべくなら専門の診療機関に行くとよいですが、大きな病院の専門医療機関にいきなりかかるのは難しい場合もあるかもしれません。クリニックのレベルでこうした診療に力を入れてやっているところを探していただくとよいでしょう。
消化器内科でもいいのですが、肝臓内科の看板を出していれば、それは肝臓専門医の証しです。ウイルス性肝炎を専門にされている医師の場合もあるかもしれませんが、それでも何らかの専門的なアドバイスを受けられると思います。
患者さんの話をよく聞き、先入観をもたずに接する。
――脂肪肝などの予防から治療まで行う施設のプランがあるそうですね。
食事療法が大切とはいっても、働き盛りの独身男性だったりすると、なかなか難しいかもしれません。
そこで近い将来、当院では脂肪肝や高血圧など、生活習慣病ごとに理想的なメニューや食材を提供できるようなカフェをつくろうと思っているのです。新型コロナ感染症の影響でスケジュールを再考せざるを得なくなりましたが、ぜひ実現したいと考えています。
さらに、脂肪肝を中心に消化器系の疾患の予防・診断・治療に総合的に取り組んでいくために、いろんな人と協力して開業医のレベルでできる脂肪肝のセンターのような施設を別につくりたいのです。
先に挙げた医療的なカフェを隣接するイメージで、生活習慣病の対策もできるような施設にできればと思っています。
――みなと芝クリニックのコンセプトはどのようなものでしょうか?
昨今は専門性を強調するクリニックも増えていますが、当院は「森を見て木を見る診療」をコンセプトに、患者さんの体全体と細部の両方をみて総合的な治療を提案するようにしています。
私は医師になった当初、外科を選択しました。内科の知識とともに外科の治療ができれば、どこへいっても役に立つと考えたからです。
現在は内科で行う手術でも血管内治療やカテーテル治療などの手技が増えてきていますが、かつては体にメスを入れ、悪いところを取り除いて修復・再建するというのはおもに外科の領域だとされていたのです。
当院では内科・外科のほかにも幅広い診療を行うことで、患者さんの負担を減らし、病気の見落としを防ぐことにもつながると考えています。そして都心にありながら「村の診療所」のような何でも相談できる場所にしたいと思っています。
――患者さんに対して、最も大切にしていらっしゃることはどんなことですか?
今はインターネット上の情報も含めて、患者さんも治療法などのいろんな情報を見聞きしていることも多いのです。
治療の過程では薬の副作用や合併症の危険性もあります。適切な治療を継続するためにも、時間をかけて患者さんによく理解してもらうことが大切だと考えています。
問診では話しやすい雰囲気で、先入観を持たずに患者さんの希望をよく聞き、聞くべきことをこちらからも問いかけて最良の治療法を一緒に探していくように心がけています。
――脂肪肝の改善がいかに大切かについてメッセージをお願いします。
糖尿病などの生活習慣病については、本も多数出版され、メディアで取り上げられることも多いのですが、脂肪肝は万人がかかりうる可能性が非常に高いにもかかわらず、まだきちんと知られていないのではないかと思うのです。
脂肪肝はメタボリックドミノのスタート地点に位置していますので、その改善には日常的な食事や運動の対策が必要で、それは生活習慣病の対策とも重なっています。ですから脂肪肝の予防につとめることで糖尿病や脂質異常症、高血圧症などにも役立つはずです。そうした対策には予防が要になりますから、ぜひ優先的に取り組んでいただきたいと思います。
みなと芝クリニック公式サイト