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【著者インタビュー】“神は乗り越えられる試練しか与えない” 失敗には宝の山が眠っている
横浜市神奈川区で脳神経外科の専門病院として年間の救急受入患者数3、000人、年間手術数300件を数え地域医療に貢献しているのが医療法人社団のう救会脳神経外科東横浜病院です。 その副院長として日々、奮闘されている郭樟吾医師がこのたび『人生を成功に導く「しくじり」のススメ』を刊行しました。 本書ではご自身の経験を踏まえ、人生で直面する失敗やしくじりへの向き合い方、その活かし方について詳しく語っていらっしゃいます。郭先生に出版のきっかけ、読者へ伝えたいメッセージなどをお聞きしました。
しくじりに蓋をせず、立ち向かう姿勢を伝えたい
――まず、本書をまとめられたきっかけをお聞かせください。
人間誰しも失敗やしくじりをするものです。私も今になって分かったことでもあるのですが、失敗やしくじりから逃げずに立ち向かえば様々なものが得られます。場合によってはその後の人生を大きく変えられるのです。
失敗やしくじりを怖がりながらも、そこから逃げずに総括していけば、必ず良い結果につながる。そういうことをお伝えしたくて本書をまとめました。
私は40代後半になりますが、20代や30代の若いみなさんにとっては転ばぬ先の杖として、また失敗に悩んだり、しくじりで困っている方にとっては発想の転換のきっかけとして、気軽に読んでいただければうれしいです。
――郭先生が考える「失敗」「しくじり」とはどのような意味でしょうか。しても良い場合、悪い場合の違いについても教えてください。
「しくじり」という言葉は、テレビ番組などの影響で市民権を得て浸透しつつあるように思います。私の中では、「しくじり」と「失敗」は少し違いがあります。あえていえば、「しくじり」はしていい失敗、もっと言えばすべき失敗というニュアンスがあります。
失敗のない人生はないでしょう。これまでうまく失敗せずにやり過ごしてこれた人もいるでしょう。しかし、失敗なくスルスル来たような人が実社会で活躍しているかというと、むしろ、様々な失敗を経験してきたような人が組織をひっぱり、優れたリーダーとして活躍しているように感じます。
私が長年身を置いてきた医療の世界もそうです。いま、日本の医療界を牽引するリーダーの方々は、必ずしもエリートコースを歩んできたわけではありません。いろいろな失敗を経験し、それこそ崖から這い上がってきたような人のほうが、環境への適応力や順応力が高く、あるいは摩擦を恐れず変化をもたらす胆力に優れています。
失敗やしくじりというとつい目を背け、蓋をしようという心理が働くものですが、そこに警鐘を鳴らしたいのです。失敗を怖がるなというのではありません。怖がっていいと思います。いざ、そうなったら一瞬、逃げてもいいとさえ思います。
ただ、背を背けてそのまま蓋をしてしまうのはもったいない。それでは何も得られるものがありません。
大学受験の失敗で、しくじりと向き合ったからこそ人生が変わった
―― 郭先生が「しくじりをすることが良い」と思ったきっかけは何かあったのでしょうか。
本にも書きましたが、最初は大学受験の失敗です。私は私立大学の付属校に通っていて、内部進学が当たり前でした。父が医師だったこともあり、自分も医師を目指そうとしたのですが、友人たちに引っ張られてのんびりして、医学部であればどこでもいいから受かりさえすればと思っていました。
しかし、結果は散々なもので、大きな絶望感を味わいました。いまから振り返ると、もし現役で偶然にもどこかに受かっていたら何も得られず、その後の人生でちょっとした試練にも耐えられない人間になっていたのではないかと思うのです。
浪人生活に入って、自分のしくじり=不合格と向き合いました。一念発起して友人関係をいったん保留し、生活習慣も見直し、毎日、何時に起床し、どこの図書館に行き、どういうペースで勉強するか根底から考えました。
その結果、1年後には受験した6校に全て合格しました。そのとき、失敗をどう受け止めるかで人間は変わるということを身をもって体験したのです。また、自分なりの勉強法を体得したことは後々、大いに役立ちました。いろいろな資格試験や認定試験はすべて一回で合格しています。
――失敗することでどのような学びが得られるか改めて教えてください。
失敗やしくじりをすると、絶望感や失望感に苛まれるのは当たり前のことです。問題はその後です。すぐでなくてもいいので、なぜ“やらかし”てしまったのか総括をしましょう。
「二度とこんな目には遭いたくない」と思えば、自然と注意するようになりますし、様々なスキルが嫌でも身に付き、胆力を養うことにもつながります。しかも、そうやって得られたものは、勉強して分かったつもりになっただけの知識やスキルのように簡単に消え去ったりはしません。自分の血肉となるのです。
人生では同じようなシチュエーションで同じような失敗をすることがよくあります。私はそれを「罠」と呼ぶのですが、人間は本当に痛い目に遭うと学習し、次からはそれを避けることができるようになります。ある意味、脱皮するのです。しかもそのことは、後になってから気づくのです。「あの時、失敗したからこそ、今の自分があるんだ」と。
もちろん、してはいけない失敗もあります。法に触れる、大勢の人を巻き込む、元に決して戻せない、そういう失敗はさすがにしてはいけません。そういうしてはいけない失敗をしないために、そこまで深刻ではないしくじりで学んでおくのです。
医療現場でよく知られている「ハインリッヒの法則」という考え方があります。これは100年ほど前に労働災害の統計分析に基づいて提唱されたもので、1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故と300件のちょっとしたミスがあるというのです。
医療の現場では日々、小さなミス(ヒヤリハット)がありますが、それをきちんと見つけ、対応することで、より大きな事故や医療訴訟になるほどの事件を防ぐことができます。
日本の社会や組織では何か起こるとつい犯人探しに走り勝ちですが、大事なのはそうしたミスが起こる背景を分析し、繰り返さない仕組みを整えることです。
私たちの病院では、小さなミスはむしろ「よくぞしてくれた」という感じで業務の改善などにつなげています。
医師として周りから支えてもらえているのは、「しくじり」のおかげ
――郭先生が今までの人生において一番失敗したこと、それにより学んだことを教えてください。
これも本に書きましたが、一番の失敗はいま勤めている病院に副院長として移ってすぐ、脳外科の新しい技術(カテーテル治療)を導入しようとしたときのことです。
私は大学病院で長年、その経験を積んでいて、メリットもよく理解していました。ただ、今から思えば、導入にあたって結果を出したい、評価されたいという意識が強かったため、周囲に対する説明が不十分だったり適用にもやや無理があったりして、次第に人心が離れていき、孤立してしまったのです。
結果的に頭を冷やせと言われ、4か月ほど病院を離れることになりました。その間、バイトや外勤をしつつ、時間はたくさんあったので、いろいろ本を読んだり考えたりしました。
気づいたのは、たとえ革新的でメリットがあっても、新しい技術を現場に導入するにはスタッフとコミュニケーションをしっかりとり、急がずに一歩一歩、進めていくのが大事だということでした。また、リーダーは部下を安心させてこそ、頼れる存在として認めてもらえます。リーダーは常に選択を迫られますし、そこで感情を揺らしてはいけない。常に一手、二手先を考えて冷静に、物おじしないで行動することがいかに重要かということを学びました。
――郭先生は過去の失敗・しくじりをいま、医師としてどのように生かされているのでしょうか。
話は少し飛ぶかもしれませんが、医療の世界でもIT化が進み、AI技術もどんどん入ってきています。今後、AIに取って代わられる業務も出てくるでしょう。
しかし、悲観的になる必要はありません。人間にしかできない仕事は必ず残ります。なぜなら、人間は感情を持つ生き物であり、他人とのコミュニケーションなくして生きていくことはできず、そして失敗から学ぶからです。
AIはビッグデータから正解を導くのは得意ですが、失敗から学ぶわけではありません。人間はひとつの失敗から学び、TPOに応じていくつもの正解を導き出せます。
そのために大事なのは「Think about」、何について考えるかという問題設定です。私がいま、医師として、副院長として周りから支えてもらえているのは、これまでたくさん失敗したことによって得られた自分の中の引き出しのお陰だと思います。
失敗やしくじりと「向き合う」ことで、人生の宝を引き出して欲しい
――郭先生が生きる上で大切にしているモットーはどのようなことでしょうか。
モットーというほどではありませんが、あるTVドラマで登場人物が口にしていた「神はその人が乗り越えられる試練しか与えない」というセリフが好きです。「止まない雨はない」というのも同じで、好きな考え方です。
今回のコロナ禍では私たちの病院も試練に見舞われています。コロナ患者を受け入れているわけではないのですが、60床のベッドと入院患者さんがいて、残念ながら第6波において院内クラスターが発生してしまいました。これをどう食い止めるか。専用病棟などでは専門の人員やノウハウ、国の支援などがありますが、私たちのような一般病棟ではそのような支援はほとんどありません。
その中で隔離区域を設け、そこに完全防備のスタッフが入って必死で対応しています。クラスター対応中には、吸引装置やPCRの検査機器などの購入などにより1週間で約1,000万円近く投資いたしました。いかにスタッフの気持ちを奮い立たせ、診療体制を維持するかを常に考えていました。ゴールは必ずあると信じてやっていくしかありませんでした。
――最後に、「しくじり」や「失敗」が怖くて行動に移せない方へむけてのメッセージをお願いします。
よく「失敗を恐れるな」といいますが、私は違うと思います。日本では失敗というとどうしても負のイメージが強く、失敗してニコニコしているなんて無理です。
ただ、誰しも人生において大なり小なり失敗を経験します。大事なのは、失敗から目を背けて蓋をするのではなく、きちんと向き合って、次につなげていくことです。もちろん、それを一人で行うのはきついこともあるでしょう。そのときは、パートナーだったり、親友だったり、先輩後輩、そういう人を頼って一緒に乗り超えていきましょう。
失敗やしくじりは、人生における宝の山です。宝を引き出せるか、みすみす埋もれたままにしておくかはその人の考え方ひとつで決まると思います。失敗を怖がってもいいですが、目を背けて蓋をすることだけはやめましょう。もうひとつ、ぜひ伝えたいのは、失敗を恐れず何がなんでも挑戦するのがいいわけではないということです。挑戦はもちろん大事ですが、挑戦しないことも別に悪いことではありません。
常に挑戦できる人はタフですし、失敗に直面できる人です。しかし、そういう人が多数派かというと、そうではないと思います。平穏無事で幸せに一生が終わればいいなという人が、私を含めて大多数ではないでしょうか。だから私は、挑戦しない人を否定したりはしたくありません。
もちろん、失敗やしくじりを乗り越えて挑戦したいと思うなら、大いに挑戦すればいいでしょう。大事なのは、失敗やしくじりから何を得るかです。失敗やしくじりとどう向き合うか。そこに人生のエッセンスがあるように感じます。失敗やしくじりをぜひ前向きにとらえてみてください。