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【著者インタビュー】子どもたちに未来を生き抜く力と本質的な学力を身につけさせる、これからの学習塾の役割
人工知能の普及によって、いま存在する仕事の約半数がなくなると言われています。こうした中、子どもを持つ親の多くは、「未来を生き抜けるよう、子どもにしっかりとした学力を身につけさせたい」と考えているはずです。 しかし、『デタラメ受験戦争 失われた「学びの本質」』の著書で、埼玉県で小中高生を対象とする学習塾「花咲スクール」を展開している大坪智幸氏は、現代日本の教育システムが崩壊の危機に瀕していると指摘しています。 日本の教育にはどんな問題点があるのか。子どもの未来のために必要な教育とは何か。そして、本質的な学力を身につけさせるため学習塾はどのような役割を果たすべきなのか、教育現場の最前線で模索する大坪氏に聞きました。
時代から取り残される学校と、質が下がり続ける教師
――著書『デタラメ受験戦争 失われた「学びの本質」』刊行のきっかけをお聞かせください。
時代が急速に変化している今、教育業界にも変革が求められています。例えば、小学校では英語やプログラミング教育が始まりましたし、中学校では新たな学習指導要領が定められ、思考力や読解力がより問われる内容に変わりました。これらの狙いは、AI(人工知能)などが普及する未来でも生き抜けるよう、テクノロジーを使いこなし、多様な人々と共働できる力を養うことにあります。
こうした中、学習塾に寄せられる期待はさらに大きくなっています。ところが、すべての学習塾が使命感に燃えているわけではありません。むしろ私は、教育よりビジネスを優先する学習塾が増えているのではないかと感じています。彼らは子どもより、自社の利益を優先しているのです。
こうした状況に対し警鐘を鳴らすこと。そして、本当の意味で「子どものためになる教育」を行うため、学習塾と保護者はどうすべきか考えてほしいと思ったことが、この本を書いた最大の動機です。
――学習塾が担うべき役割が大きくなっているというお話ですが、背景には何があるのでしょうか。
最大の原因は、学校の教育力が低下していることです。第2次ベビーブーム時代後に採用されたベテラン教師たちが、この10年ほどで大量に定年退職を迎えました。一方、学生の間に「教師は大変な仕事だ」という評判が広まったことなどが影響し、教員採用試験の倍率は徐々に低下しています。
そのため、十分な能力・資質を持たない教師が増えているのです。例えばある公立中学校では、夏休みに「学習塾に通っている生徒は学習塾のワークを1冊、通っていない生徒は市販のワークを1冊やって提出する」という宿題が出されていました。学習塾や生徒の自主学習に丸投げするという信じられない内容で、私は唖然とするとともに、教師の質が下がっている現状を肌で感じました。
学校全体の現場対応力も、以前より落ちていると感じます。その実態を明らかにしたのがコロナ禍です。どの学校にも早急なオンライン対応が迫られましたが、うまく乗り越えられたのは一部の私立校と、私たちのような一部の学習塾だけ。公立校ではオンライン教育を導入することで手一杯で、「オンラインの特徴を生かし、どうやって学力を伸ばすか」という高いレベルの取り組みができていたところはほとんどありませんでした。
――なるほど。ところで、家庭も教育の重要な担い手だと思うのですが、こちらではどのような変化が起きていますか。
今は多くの家庭が共働きで、子どもと正面から向き合う精神的・時間的余裕のない親が増えています。子どもとの会話が少ない、あるいは、子ども社会の様子がよく分からないなどの理由で、ついつい子どもに甘くなったり、上手に叱れなくなったりしている親は決して珍しくありません。一方、子どもの側も親に気を遣ってか、学校で起きたトラブルや、普段から抱えている悩みなどを親に相談しないケースが目につきます。
――学校の教育力が下がり、家庭でも子どもと向き合う余裕が失われつつある。だから、学習塾への期待が高まっているというわけですね。
そう思います。今後の教育機関には、「知育」と「徳育」の2つを育てることが求められると考えています。知育とは小手先の受験テクニックではなく、深い思考力や表現力、それを支える確かな学力を養成すること。そして「徳育」とは、自分も他人も尊重しながら、共調して暮らしてゆける豊かな人間性を育むことです。そして学習塾も、その一翼を担う必要があります。それなのに、ビジネスばかりを優先している塾が目立つのは、実に困ったことです。
実力と情熱を兼ね備えたプロ講師が不断のカイゼンに取り組む
――塾に求められる役割が大きくなる中、大坪さんが考える「良い塾」「悪い塾」とはなんでしょうか。
まず言えるのは、教育よりビジネスを優先する塾は、明らかに「悪い塾」ですね。また、単に受験テクニックを教えるだけ、あるいは、学校の補助的存在でよしとしているような塾も、お勧めはできません。
そこで塾選びの際には、以下の6ポイントを確認してみてください。
(1)塾経営者の姿勢や理念、教育に対する関わり方
(2)入塾希望者向けの体験授業ではない、「普段の授業」の様子
(3)ネットの書き込みではなく、人同士の口コミ情報や保護者・生徒の感想
(4)授業・講習のシステムと費用が適正かどうか
(5)入試・受験の情報を得る機会が用意されているか
(6)清潔感があるか
これらをチェックし、納得できたなら、「良い塾」だと判断できるでしょう。
――大坪さんが主宰する花咲スクールは、他の塾とどんなところが違うのでしょうか。
先ほど挙げた6つのポイントについては、すべて満たしていると自負しています。その上で胸を張れるのが、「授業力」の高さです。多くの塾では大学生やフリーターが講師役を務めていますが、彼ら「インスタント講師」と、豊富な経験に裏打ちされたプロ講師とでは、学習効果に段違いの差が出ます。
私は塾の代表としての仕事をこなしながら、少なくとも年600時間以上の授業を受け持っていますし、私の片腕として働いている講師も年に千数百時間の授業を行います。つまり我々は、長時間かけて教育に取り組んでいるプロフェッショナルなのです。インスタント講師ばかりの塾とは、当然ですが大きな差があります。
もう1つ当塾が誇れるのは、授業内容を少しでも高めるため、毎日「カイゼン」に取り組んでいる点です。例えば、我々はコロナ禍以降、「ある教室で行われている授業を、オンライン会議システム・Zoomでつながれた別教室でも展開する」という取り組みをいち早く開始しました。
これは、授業の質を維持しながら、教室内が密になることを避けるためのやり方で、あるNPOの年頭基調講演で報告したところ、複数の教育機関から強い関心を寄せられたのです。ある私立高校の校長先生からは、「花咲スクールのやり方を、当校でもすぐに導入しようと思います」と声がけをいただいたほどでした。
教育の質を維持するため、新教室の開設は決して急がない
――大坪さんは以前、日本郵便や自動車販売など教育とは離れた業界にいらっしゃいましたが、なぜ教育の世界に舵を切ったのでしょうか。
大学時代、私は塾講師のアルバイトをしていました。生徒たちが学力を伸ばし、自信をつけてキラキラと目を輝かせていく姿を見る仕事が、純粋に楽しかったですね。それで塾への就職も頭をよぎったのですが、当時は就職氷河期のまっただ中。企業規模や安定性などを考え、新卒時は日本郵便に就職しました。
しかし、決まったルールに盲従しなければならない社風が不満で、入社半年で大手自動車会社のディーラーに転職。ここで私は、壁にぶつかりました。新車販売の飛び込み営業マンを快く迎える顧客は、ごく少数。罵声を浴びせられたり、汚いモノのように追い払われたりする日々を送ったのです。このままではダメになると感じ、自分を生かせる仕事、情熱を注げる職場を探したところ、頭に浮かんできたのが教育業界でした。
子どもの学力や考える力を伸ばせれば、私のように仕事と自分のミスマッチでつらい思いをする社会人を減らせる。また、人としてやっていいこと・やってはいけないことをきちんと教えられれば、営業マンに罵声を浴びせるような人もいなくなる。そう考え、教育業界を目指そうと決意したのです。
花咲スクールが知育だけでなく徳育まで行っているのも、こうした私の過去の経験からきています。
――大坪さんご自身も、教育に対する強い思いを抱いてこの世界に飛び込まれたのですね。ただ、スキルと情熱を兼ね備えた講師は、希有な存在ではないでしょうか。
そうだと思います。ですから、当塾の拡大スピードは決して早くはできません。銀行や同業者の信頼できる先輩からはよく、「早く2つ目の教室を出しましょう」とせっつかれるのですが、生徒たちを任せられる人材が育たない限り、新教室の開設は不可能です。新教室を粗製濫造したら、それはもう、教育とは呼べません。
――大坪さんが、教育の場で大切にしていることはありますか。
講師としては、生徒と同じ目線、もしくは生徒より下からの目線に立つことを意識しています。生徒と話をする際には、背をかがめたりして物理的に目線をそろえるようにしますし、心の中でも生徒に寄り添ったものの考え方をするのが私のやり方です。部下にも、同じやり方をとるよう指導しています。
それから経営者としては、「意味のない前例を、常に疑う」よう心がけています。例えば、学習塾業界で広く行われている「夏合宿」や「正月特訓」を廃止したのは、その一例です。多くの学習塾は「これまでもやっていたから」「儲かるから」といった理由で、夏合宿などを疑うことなく続けてきました。
しかし当塾では、これらのプログラムには十分な根拠がないと判断し、一切やめたのです。逆に、効果が期待できるやり方があれば、すぐに取り入れるようにしています。オンライン授業に乗り出した時期も早かったですし、「集団個別」というやり方をここまできっちり実現している学習塾も、他にはなかなかないはずです。
――「集団個別」とはどんな指導法ですか。
集団授業と個別指導をハイブリッドしたやり方です。当塾では、1コマ目は講師が集団授業を行い、続く2コマ目には、生徒が各自のペースで個別演習をする仕組みになっています。1コマ目を「分かる」ための時間、2コマ目を「できる」ようになるための時間にすることで、頭の働かせ方をしっかり身につけさせたり、知識の定着度を高めたりできます。
多くの学習塾は、集団授業と個別指導のどちらか一方のみで教えています。しかし当塾では、両方を組み合わせることで高い効果を上げているのです。
フランチャイズ制や技術活用による生徒数増加を模索中
――これからの花咲スクールについて、どのような展望を持っていらっしゃいますか。
5年以内には、2箇所目の教室を開きたいと考えています。スキルと情熱を兼ね備えたプロ講師を育成して教育の質を維持するためには、そのくらいの期間がどうしてもかかるのです。
ただ、我々は自分たちのやり方に自信を持っていますから、このメソッドをできるだけ広めていきたいとも願っています。そのために模索している道の1つが、「フランチャイズ制」です。教師や塾講師として十分なキャリアを積み、さらに、当塾の方針に賛同していただける方がいらっしゃれば、花咲スクールの看板で教室を開いてもらうことが可能でしょう。
そしてもう1つが、テクノロジーを活用する道です。Zoomなどを使ったオンライン授業はすでに一般的になっていますし、VR(仮想現実)や「メタバース」(インターネット上で「アバター」と呼ばれる自らの分身を介し、他者と交流できる仮想空間のこと)などの技術も急速に発達しています。また将来は、私のようなプロ講師の動きを完全にトレースできるロボットが開発されるかもしれません。そうした技術を使って生徒数を増やすことも、現在、模索しているところです。
――花咲スクールはこれからも、新たな挑戦を続けるわけですね。それでは最後に、進路に悩む親子と、新しい教育のあり方を模索する教育関係者の方々にメッセージをお願いします。
まず、親子の皆さんにお伝えしたいのは、良い教育機関を見つけることの大切さです。経験豊かなプロ講師が教える学習塾は決して多くありませんが、巡り会うことができれば、子どもの未来は一気に開けます。そのためには、信頼できる機関に相談するといいと思います。例えば私の地元には、「特定非営利活動法人埼玉教育ネット」という組織がありますので、こうした場で良い学習塾を紹介してもらってはいかがでしょうか。
子どもの可能性は、環境で大きく左右されます。決して安くない受講料を支払うのですから、プロ講師の元でしっかり学べ、「教育」を大切にしている学習塾を選んでほしいと思います。
教育関係者、特に学習塾に関わる皆さんには、一緒に民間教育を立て直していこうと呼びかけたいです。「教育を大事に」という我々の熱い志(こころざし)に賛同していただけるのであれば、例え立場が違っても、ぜひ手を取り合って進んでいきましょう。特にその塾のビジネスライクな経営方針に違和感のある人には、当塾で力を発揮する道もあるのではないでしょうか。