【vol.4】株式会社SAMURAI TRADING 代表取締役社長櫻井 裕也さんの本棚 ―「私を動かした75のメッセージ」。環境に優しい「金の卵」への挑戦―
2015年に提唱された「SDGs (Sustainable Development Goals )=持続可能な開発目標」。誰一人取り残さない世界を目指し17の目標と169のターゲットが掲げられ、2030年の達成目標へ向け、日本でも広がりを見せています。そんなSDGsに積極的に取り組む企業のリーダーに、経営信念に影響を受けた本をお聞きする連載「社長の一冊」。 埼玉県内で食品添加物の輸入・研究開発を行う株式会社SAMURAI TRADING(サムライトレーディング)。産業廃棄物として処理していた卵の殻を活用し、環境にやさしい素材を開発し注目を浴びています。今回は、代表取締役櫻井 裕也さんに心に残る書と経営について語っていただきました。
社長の一冊 『アメリカの心―全米を動かした75のメッセージ』(ユナイテッド・テクノロジーズ・コーポレー (著), 岡田 芳朗 (翻訳))
心震えた75のメッセージは人生・経営における財産
――今回選んで頂いた一冊、『アメリカの心―全米を動かした75のメッセージ』との出会いを教えてください。 今から26年前1996年に、経営者が集まる勉強会に参加したことがきっかけでした。70人ほどで様々な意見交換をしていたのですが、2日目の勉強会である方と激しく意見が対立したのです。次の日にその対立した方から「話がある」と呼び出されました。
前日の流れでまた怒号が飛ぶのかと構えたのですが、泣きながら謝ってきたのです。その方が色んな人に意見を聞いたところ、私の考え方が支持されていたそうで、その方自身が考えを改め、自分が間違っていた、申し訳ないと、理解を示してくださいました。
冷静になって話をしているうちにその方から、「これは櫻井さんにとって勉強になる」とプレゼントしてくれたのがこの書籍でした。
――意見が対立された方からの贈り物だったのですね。
はい。その方は当時60歳で人生経験も豊富で、色々な話をしながら、この方がおすすめしてくれる本なら読んでみたいなと思いましたね。すぐに読んだのですが、ひとつひとつの言葉がすごく響きました。
この書籍はアメリカで人気になった書籍で、ウォールストリートジャーナル紙に掲載された、ユナイテッドテクノロジー社の広告の文章が書かれています。今では色々な啓蒙本は刊行されていますが、当時はあまりなかったので余計に響きましたね。
――書籍には75のメッセージが記載されていますが、その中で櫻井社長が印象に残ったメッセージを教えてください。
「言ってしまって後悔するより」と「失敗を恐れるな」の2つが特に印象に残っています。メールや手紙、電話にしても一回飛び出した「言葉」は取返しがつかないので、一言ひとこと気を付けなくてはと自戒になっていますね。
「失敗を恐れるな」はいつでも見返すようにはがきを挟んでいるほどです。私のチャレンジ精神、新しいことにチャレンジをすることはここからきていますね。他にも色々なメッセージが載っているので、どれも私自身の人生や経営に多く活かされています。この書籍の続きである「続・アメリカの心」と2冊一緒に何度も読み返していますね。
100年先の地球を考える、“今”の時代に求められる「対応力」
――書籍のメッセージが経営に活かされているのですね。櫻井社長ご自身の経営論について教えてください。
時代の変化のスピードは日々加速しています。2022年の今、オンラインで仕事をすることを5年前には予見できませんでした。企業では5カ年、10カ年計画を立てると思うのですが、現在の早い成長スピードのなかでは5年は遠い未来。昔の経営論は成立しないのではと思っています。
その中で私は、「対応力」が一番必要だと思っています。
働き方も多様性になるなかで、どれだけ「対応力」を持って時代に即した仕事を出来ていくかが、これからの経営者にとってなくてはならいない考え方だと私は思います。
――そのような櫻井社長が手がける「株式会社SAMURAI TRADING」ではどのような事業を行っているのでしょうか。
主に食品添加物の開発と輸出入をしています。近年は2本柱として卵の殻を使ったバイオマスプラスチックとエコペーパーの開発を行っています。今年は新しい試みとして、サーキュラーエコノミーに取り組む予定です。その一つとして、「家庭用の油の回収」の事業化進めています。
油をそのまま下水に流すと海洋・河川汚染に繋がります。油は燃料となるので捨てるのはもったいない。各自治体やスーパーと連携して油の回収を行い、油をベジタブルインクへ変換したり燃料にリサイクルしたいと思っています。
一緒に取り組む、あるスーパーは自社で農園を持っていて、回収した油を生成し、ハウスのボイラーの燃料として使いたいと話しています。いずれは組合化し、近隣だけではなくて広い範囲をカバーできるようにしていきたいですね。
「次世代の子どもたちに、環境負荷のない地球を残してあげたい。それに私たちがコミットする」という経営理念に則した取り組みを創業以来続けています。
大量廃棄されていた卵の殻から生まれた、環境に優しい「金の卵」
――創業以来、現在のSDGsにつながる「環境負荷のない地球を残す」ための取り組みをされてきたのですね。
そうですね。2007年に『不都合な真実』(アル・ゴア著/ランダムハウス講談社)を読んだ時に、衝撃を受けて環境問題についてより考えるようになりました。
当時、居酒屋大手のワタミグループ全体のプリンを私たちの会社が全て供給していました。毎日何トンとプリンを供給するなかで、原料の卵の殻は産業廃棄物として捨てていました。これを何とか活用したいと、「ワタミファーム(自社農園)で、卵の殻を土壌改良など肥料として使えないですか」とワタミさんに相談して始めました。そこがスタートですね。
取引先が増えていくなかで、畑の肥料へ変換するだけでは間に合わなくなりました。日本人1人当たりの卵の消費量は世界で2番目に多い年間338個。どんどん卵の殻が出てきてしまうのです。
――次々に出てきてしまう卵の殻は、畑の肥料以外にどのように活用したのでしょうか。
畑の肥料だけではなく、石灰岩の変わりに代用したり、プラスティックの原料に卵の殻を混ぜて作ったバイオマスプラスチック素材「PLASHELL(プラシェル)」を開発しました。
また、紙の原料である木材のCO2の吸収にも疎外がないよう、卵の殻を配合することで産廃が減り、木材の保護もできると考え、2020年に「CaMISHELL(カミシェル)」という次世代のエコペーパーも発売しました。
2つに続き2021年には次世代のバイオマス素材である「Shellmine(シェルミン)」を販売し、大手ホテル・外食チェーンなどで活用されています。
――エコ商品の開発とともに進めているプロジェクトがあるとお聞きしました。
2017年に「エコ玉プロジェクト」というSDGsの普及活動・ボランティア活動を行うチームを立ち上げました。初めは私1人でしたが、今では県や市町村などの行政や団体、大企業から中小企業まで56団体が参画しています(2022年2月現在)。
また、エコ玉プロジェクト プロジェクトリーダーでもあるカネパッケージ株式会社の指導のもと、フィリピンなど津波被害が起きるであろう所に、現地の方たちとマングローブの植林をしています。10年ほどで大きくなるので、津波が来てもマングローブで防げる可能性が高い。環境破壊をせず、コンクリートも使わずに天然資源を活用した防災・減災は可能です。
――「環境負荷のない地球を残す」様々な活動に取り組む中での将来展望をお聞かせください。
直近の目標として「サムライスピリッツ2025」を立てています。再生エネルギーを導入し、バイオマス発電を取り入れながら、製造に関するエネルギーを100%再生エネルギーに変更していきます。「CaMISHELL(カミシェル)」が一般紙に比べると約20%~30%のCO2削減量を50%超へ目指します。「サムライスピリッツ2030」ではカーボンニュートラルの達成を位置付けています。
「エコ玉プロジェクト」は、埼玉県から始まり、神奈川版など徐々に広がっているので全国的な動きにしたいですね。マングローブの植林に関しても津波被災地になるであろう全ての地域に対応していきたいです。いずれも私たちだけで出来ることではないので、周りを巻き込んで大きくすることが大切だと思っています。国を挙げて皆で一致団結してSDGsに取り組んでいきたいですね。