【vol.2】ホットマン株式会社 代表取締役社長 坂本将之さんの本棚 ―「物で栄えて心で滅びないように」心に寄り添う老舗タオルメーカー7代目の思い ―
2015年に提唱された「SDGs (Sustainable Development Goals )=持続可能な開発目標」。誰一人取り残さない世界を目指し17の目標と169のターゲットが掲げられ、2030年の達成目標へ向け、日本でも広がりを見せています。そんなSDGsに積極的に取り組む企業のリーダーに、経営信念に影響を受けた本をお聞きする連載「社長の一冊」。 東京都青梅市にある創業150年を超える老舗の国産タオルメーカー、ホットマン株式会社。国内タオル業界で唯一、自社で製造から販売まで行い、数々の取り組みが持続可能な社会への貢献が認められ、第19回「グリーン購入大賞」の大賞・経済産業大臣賞を受賞するなど注目されています。今回は、7代目代表取締役社長 坂本将之さんに心に残る書と経営について語っていただきました。
社長の一冊 『生きる幸せに気づく 五つの心』(安田瑛胤著)
世界遺産薬師寺長老から頂いた「もったいない」のメッセージ
――今回選んで頂いた一冊、『生きる幸せに気づく 五つの心』との出会いを教えてください。
最初に読んだのは2010年3月です。私は、2007年から経営者や会社の幹部になる人材を育成するセミナーに参加していました。そのセミナーでは毎回、大企業の経営者や開発、マーケティングに関わる方などが講師の先生として来てくれたのですが、2010年3月にこの書籍の著者である、安田瑛胤さんに講師として来て頂いたのです。あまりにかけ離れた存在の方が講師として来られたことに驚いたことを覚えています。
世界遺産・薬師寺長老(出版時:菅主)である安田瑛胤さんから、直接様々なお話を聞かせて頂きました。その中でも特に「人としての在り方」についてのお話は強く心に響きました。そのときに直接頂いた書籍です。
書籍は参加者全員が頂いたのですが、事前に安田瑛胤さんが直筆のメッセージを書籍に書かれていて、全てメッセージが違いました。どのメッセージに出会うかはその人の運命だと仰っていて、私が手にとった本には「もったいない」というメッセージが書かれていました。
「もったいない」という言葉は日本語では当たり前に子どもの頃から言われていることなのですが、今まさに「サステナビリティ」や「SDGs」という時代になり、このメッセージを身に染みて感じています。
――「もったいない」とういメッセージから書籍を広げて、書籍の中ではどのようなことが印象に残りましたか。
書籍を手に取った当時から「物で栄えて心で滅びないように」という言葉がすごく印象に残っています。
書籍の中で5つの心は「感謝の心」「思いやりの心」「敬う心」「詫びる心」「赦す心」が書かれていますが、まずその前提にある言葉というのがすごく印象深かったですね。
20世紀に入ってからどんどん物で豊かになり、生活するだけでも充分な物がありながらも、もっともっとと欲が出ていますよね。一方でそれを奪い合うような紛争や歪み合いがあることを悲しく思います。本当にこのままで良いのか、地球や世界の未来はどうなっていくのか。その一言がすごく心に残っています。
ある意味当たり前の事を書いていたりもするのですが、改めて読み返して穏やかになれる、今の時代だからこそ必要だなと感じた書籍ですね。
――そのような5つの心を通して、現在の経営にどう活かされていますか。
書籍にある5つの心というのは、経営をするための心得というわけではありません。しかし、経営者である前に一人の人間としてこの心を持ち続けることが、良好な人間関係や職場環境の構築、組織力の強化に繋がり、それは業績にも反映されていくものだと思います。
現場で働く人たちこそ、想いを形にしてお客様に届けるという大切な役割を担ってくれています。どの工程が欠けてもお客様に商品をお届けすることはできないので、社員にとても感謝をしています。
私もこの立場になるまでは、現場で働いていたので初心に立ち返るという気持ちも込めて何度も読み返していますね。
タオルは水だけではなく思い出も吸い取れる
――創業150年を超える「ホットマン株式会社」の経営理念を教えてください
経営理念は「創造の精神で商品とサービスを革新し続け、タオル製品を通して一人でも多くのお客様の快適で心豊かな生活に貢献する」です。
単に水を吸うためのタオルを作る会社なら世界に沢山ありますし、安く作ろうと思えば海外でいくらでも安く作れます。しかし、私たちがやるべきことは「お客様の快適で心豊かな生活に貢献する」こと。設立当初からこの想いはブレずに経営理念として置いています。
――「お客様の快適で心豊かな生活に貢献する」、そんな貴社ならではのタオルへのこだわりについて教えてください。
まずは、「製販一貫」です。日本のタオル製造は基本的に分業制なのですが、当社は日本で唯一全てのタオル製造工程から販売までを自社で行うことができます。販売も卸すのではなく、直営店で自社のスタッフが販売しています。製品に責任を持ち、自分たちで本当に良いものを作るという思いを商品と一緒に届けることができる仕組みです。
商品に関しては吸水性の高さに徹底的にこだわると共に、長く使っていただきたいという思いがあります。タオルは水分だけではなく、思い出も吸い取れるものだと思っています。「このタオル、あなたが産まれた時に頂いたのよ」と子どもが10歳になった時にも手に取って話せるタオルでありたいですね。それを思うと長く使えるということは絶対に必要ですし、今の時代でいうとSDGsにも繋がりますね。
自分の好きな色や季節感など、タオルをインテリアのひとつとして、目でも楽しめるような工夫もしています。また、素肌に直接触れるものなので、薬剤に頼らず原材料から徹底的に拘った安心安全な作り方もしています。「ホットマン」のタオルは、そのような様々なこだわりを複合したオリジナルのタオルですね。
いつの時代も「快適で心豊か」を求めて進化していく
――以前より「長く使える」などSDGsに繋がる取り組みをされていますが、本格的にSDGsに参画した背景を教えてください。
元々、SDGsに参画する前から、例えば工場で出るゴミを全て固形燃料にして再利用することや、フェアトレードコットンタオルの製造販売など、人にも環境にも優しい作り方をしようと取り組んでいました。
そのような取り組みをしていたので、2018年にある方から、環境の賞(「グリーン購入大賞」)に応募してみたらとお話を頂きました。結果としてその年に「第19回グリーン購入大賞」の大賞・経済産業大臣賞を頂けたのですが、実は応募書類を作成する時に初めてSDGs を知りました。
――2018年の「第19回グリーン購入大賞」をきっかけにSDGsの取り組みを始めたのですね。
はい、まずは今までの取り組みをSDGsの項目に結びつけていくことから始めました。そうすることで現状把握と課題、取り組むべきことが明確になりましたね。そこからは、私が社員全員、各部署約10人単位で順番に勉強会をしました。
取り組むべき理由やメリットなどについて話したところ、社員の方から「タオルの回収をやってみましょう」などのアイディアも出てきました。タオルの回収は実際に取り組みを始め、今はコロナの関係で抑えていますが、これからも地道に進めていこうと考えています。
――新しい取り組みもされている一方でやはり、「製販一貫」という仕組みがとても評価されていますよね。
そうですね。根底にある「製販一貫」という仕組みは高い評価をいただいています。大量生産・大量消費・大量廃棄が問題となっている中、私たちは基本的に自分たちで作って自分たちで売っているので、無駄を徹底的に排除することができます。
売れたものを補充するという考え方で製造しているので無駄なものは作りませんし、商品の8割を定番商品とすることで、たとえ一時的に作りすぎたとしても必ず消化できます。シーズン商品も先に数量を設定して品数限定で製造・販売をしています。書籍の「もったいない」がここでも活きていますね。
――様々なSDGsの取り組みをされていますが、今後はどのような企業でありたいでしょうか。将来展望をお聞かせください。
社会と共存できている会社になっていたい、なっていないと生き残っていけないと思っています。SDGsは企業にとって「本当に存在意義・価値のある会社なのか」ということが試されていると思うので、対応できた上で且つお客様に価値を感じて頂ける会社になっていかなければならないですね。150年続いている会社が必ずしも151年続くとは限らないので常に進化していきたいです。
私たちの経営理念である「お客様の快適で心豊かな生活に貢献する」の「快適で心豊か」は常に変化しています。20、30年前に心豊かを感じる中に「エコ」や「サスティナブル」はなかったと思います。「快適で心豊か」はどんどん変化してくので時代が求める「快適で心豊か」を常に模索して実現し、一歩先でお客様に提案できる会社になっていきたい、そういった企業でありたいなと思います。