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【著者インタビュー】『歯科恐怖症患者を救う! スゴイ無痛歯科治療』を著した歯科医・山本彰美氏は、いかにして「歯医者嫌い」を支えているのか
歯科医院に立ちこめる治療薬の匂いや、歯を削るドリルのキーンという音に触れただけで気分が悪くなり、治療を拒否してしまう「歯科恐怖症」の人は、国内だけで500万人前後いるとも言われています。しかし、治療を受けず放置しておくと、むし歯や歯周病が進んで歯並びがガタガタになってしまうでしょう。すると、見栄えが悪くなったり講習がひどくなったりして対人関係やメンタルに悪影響を及ぼしますし、さらに、糖尿病など他の病気を引き起こす危険性すらあるのです。 こうした中、麻酔を用いた「無痛快適歯科治療」を提供して歯科恐怖症の患者を救っているのが、大阪中之島デンタルクリニックの理事長である山本彰美(あきよし)氏です。無痛治療とはどのようなやり方か。そして、無痛治療によって山本氏はどのような社会を実現したいのかインタビューしました。
一人ひとりの患者に合った麻酔で「無痛歯科治療」を実現
――著書『歯科恐怖症患者を救う! スゴイ無痛歯科治療』刊行のきっかけをお聞かせください。
世の中には、「歯科恐怖症」の患者さんがたくさんいらっしゃいます。歯医者が怖くて、つい治療を怠ってしまうのです。
むし歯や歯周病を放置しておくと、健康な歯がほとんど残っていない「口腔崩壊」という状況に陥ります。すると、しっかり噛めなくなり、必要な栄養素がとりにくくなって健康に悪影響をもたらすのです。また、口の中で発生した悪い菌が全身の感染症につながったり、糖尿病や肺炎などの遠因となったりする危険性もあります。さらに、歯並びの悪さが気になって人と話すのがおっくうになり、対人関係がうまくいかなくなるという問題を引き起こすことだって十分に考えられます。歯のトラブルは口だけでなく、健康とメンタルの双方にも大きなダメージを与えるわけです。
歯科恐怖症で歯科医院から遠ざかっている方々に、むし歯や歯周病を放置する危険性を伝えたい。そして、歯医者が怖くてたまらない人でも、安心して治療を受けられるクリニックがあることを知ってもらいたい。そう思ったのが、この本を書いたきっかけでした。
――なぜ人は、歯科恐怖症になってしまうのでしょうか。
過去に受けた歯科治療で強い痛みや怖い思いをしたことがトラウマになり、歯科恐怖症になる人が多いです。また、治療時に麻酔をされて気分が悪くなったことがきっかけで、歯科恐怖症に陥る人もいます。
この病気は、心配性気味の人や、音や匂いに敏感な人だけがかかるわけではありません。それまで普通に暮らしていた人が、突然かかるケースも多いのです。また、歯科恐怖症から抜け出すのはとても難しいのが実情です。そして「歯医者が怖い!」という気持ちがどんどん強まり、治療放棄へと陥ってしまいます。
――歯科恐怖症の患者さんに対して山本先生が提供している「無痛快適歯科治療(以下「無痛治療」)とは、どんなものなのでしょうか。
簡単に言えば、「麻酔で眠っている間に治療が終わるやり方」です。
大阪中之島デンタルクリニックでは治療時に、「静脈内鎮静法」と「静脈麻酔法」による麻酔をおこないます。どちらも、点滴で静脈から体に薬剤を入れるもので、静脈内鎮静法では患者さんが医師と簡単な意思疎通ができる程度に意識を残し、静脈麻酔法では完全に眠ってもらいます。当クリニックの歯科医師は全員、高度な麻酔の手法を身につけていますし、保険制度の制約を受けない自由診療なので、患者さんそれぞれに最適な麻酔薬を選ぶことが可能です。一人ひとりに合わせた「テーラーメイド」の麻酔をかけることで、痛みや恐怖を感じず治療が済む仕組みになっているのです。
――無痛治療を看板に掲げている歯科医院は、大阪中之島デンタルクリニック以外にもあるようですね。
そうですね。しかし他の歯科医院で治療を受けてみると、多少は痛みがあるのが普通です。昔の治療法による痛みが10だとすると、痛みの程度は2~3くらい。決して「完全な無痛」だとは言えません。一般的な患者さんなら我慢できる痛みなのかもしれませんが、歯科恐怖症の患者さんがこうした歯科医院で治療を受けると、どうしても大きな心理的苦痛を感じてしまうのです。
――一般的な歯科医院ではなぜ、完全な無痛治療ができないのでしょうか。
最大の理由は、歯科恐怖症の患者さんに最適な麻酔法とされる静脈内鎮静法・静脈麻酔法を、自院内でおこなえる歯科医院が少ないことです。これらの手法は麻酔医だけに許されているわけではなく、歯科医師にもできます。ただ、一般の歯科医は麻酔の経験や技術を十分に持ち合わせてはいないため、自力で静脈内鎮静法や静脈麻酔法をおこなうのが難しいのです。また、歯科医院が院外から麻酔医を招いて静脈内鎮静法や静脈麻酔法をおこなうこともあるのですが、こうしたケースでは麻酔医に、患者さんへの個別対応を求めるのは難しいでしょう。それに、外部からの麻酔医はトラブルを恐れ、あまり深く麻酔をかけたがらない傾向があります。その結果、患者さんはどうしても痛みを感じてしまうのです。
最長7時間のカウンセリングで患者の「歯科不信」を払拭
――大阪中之島デンタルクリニックでは治療前のカウンセリングに力を入れていると聞きましたが、なぜですか。
当クリニックにいらっしゃる患者さんの中には、他の歯科医院で治療をし、そのたびに辛い思いをされた方がたくさんいらっしゃいます。そうした方々に前向きな気持ちで治療を受けていただくためには、治療の前に「心の痛み」を聞き取り、信頼関係を築いて、歯科医師に対する不信感を払拭するのが大切なのです。そこで当院では、治療前に最低でも2時間、最長で7時間ほどかけてカウンセリングをおこない、それから治療に入るようにしています。私やスタッフと「お住まいはどこですか? ああ、あのあたりなら○○というおいしいお店がありますよね」などのたわいない雑談をし、患者さんに笑顔が出たタイミングで口の中を見せていただくように心がけています。
また、当クリニックの診察室はすべて個室になっています。ドアを開けるとマッサージチェアのような落ち着ける椅子が目に飛び込み、恐怖感を与える器具や薬品類は見えないよう工夫しています。そしてカウンセリングが終わった患者さんは、その椅子に座ったまま治療を受けられる仕組みになっているため、ゆったりと安心した気分のままでいられるわけです。
――山本先生が大阪中之島デンタルクリニックを開業されるまでの経緯を教えてください。
私は大阪歯科大学卒業中から麻酔科に興味を持ち、卒業後は大阪歯科大学歯科麻酔学講座に進み、そして大阪赤十字病院の麻酔科で研修を受けました。歯科医として回り道になると反対する人もいましたが、ここで麻酔について深く学べたことが、「麻酔の技術・知識を持つ歯科医師」という現在の私の骨格を形作ってくれたと思っています。
1988年、実家に近い和歌山県那賀郡粉河町(現在紀の川市)で、私は「山本歯科」を開業しました。地域密着型の歯科医院として保険診療中心の治療をおこなっていたのですが、そのうち、無痛治療を求める患者さんが全国にたくさんいることに気づいたのです。そうした患者さんを救うため、もっと交通の便がいい場所に移転できないかと考えていたところ、大阪の中心街に新設されるクリニックモールから声がかかりました。そのモールはオンリーワンのクリニックを集めるのがコンセプトで、私たち以外にも個性的な医師・クリニックが互いに切磋琢磨できる場でした。和歌山から離れることに悩みもありましたが、山本歯科を他の歯科医師にお任せし、2008年に大阪中之島デンタルクリニックを開業したのです。余談ですが、和歌山には私を頼ってくれる患者さんが今でもたくさんいますから、月に1度のペースで戻り、治療をおこなっています。
――現在の大阪中之島デンタルクリニックには、どのような患者さんが通われていますか。
やはり、歯科恐怖症の患者さんが多いです。しかしそれ以外にも、「痛みがなく快適な治療をしてほしい」、「綿密なカウンセリングを受けてから治療に進みたい」、「時間通りに治療を終えたい」など、さまざまな要望をお持ちの方が来院されていますね。
患者さんの多くは大阪をはじめとした関西圏に住んでいる方ですが、遠方から足を運ばれる方も少なくありません。それこそ、北海道から沖縄まで、幅広い地域からもいらっしゃいますよ。それだけ、無痛治療を求めている人がたくさんいるということですから、私としては身が引き締まる思いですね。
患者の歯だけでなく心も診られる後進を育てたい
――山本先生の話を伺っていると、単に歯だけを診るのではなく、患者さんの心まで診ているように感じられます。
そうかもしれません。
今の日本は昔に比べ、平均寿命が大幅に伸びています。それに合わせ、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間、すなわち「健康寿命」も伸ばしていかなくてはなりません。しかし、歯が不健康なままで放置しておくと健康寿命が短くなり、健康ではない期間が長くなってしまうのです。歳をとってから、「若い頃に歯を大切にしておけばよかった…」と後悔している人を、私はこれまでに数え切れないほど見てきました。
当クリニックを訪れる患者さんのほとんどは、歯医者に対してネガティブなイメージを持っています。そして、「歯医者なんて大嫌い!」「歯を削られて痛い思いをするくらいなら、そのまま放っておく方がマシだ」と考えているのです。そうした人に歯科治療を受けてもらいたい。そして患者さんの健康に少しでも貢献し、「ああ、健康でいい人生だった」と1人でも多くの人に感じてほしいという思いが、私の原動力になっています。
――山本先生は今後、クリニックをどのように運営したいですか。
当クリニックの近くにもう少し大きな場所を借り、治療環境をより良くしたり、歯科医師の数を増やしたりする構想を進めているところです。しかし、分院を粗製濫造するなどの安易な事業拡大は考えていません。私たちの治療はかなり特殊で、歯科医師や医療スタッフには歯科治療に関する高度なスキルはもちろん、麻酔の技術や知識、患者さんへのカウンセリング能力などが求められます。そうした人々を短期間で育成するのは不可能ですから、規模の拡大はどうしてもゆっくりとしたペースになってしまうのです。
ただし、いずれは信頼できる後進を育て、当クリニック以外でも無痛治療を受けられるようにしたいですね。そうして、より多くの人々に痛みや恐怖のない歯科治療を広められればと考えています。
――後進の育成は、山本先生にとって大事なテーマですか。
そうですね。開業当初、当クリニックの所属歯科医師は私だけでした。しかし今では、私を含めて4人の歯科医が治療に当たっています。今後は若い歯科医を採用し、私たちの治療法を伝えていけたらいいですね。
――それでは最後に、歯科治療を怖がっている方々へのメッセージをお願いします。
歯の治療技術は日進月歩です。昔は治療が難しかった歯のトラブルも、今では解決できるようになってきました。ただし、その際に障壁となるのが、歯科治療に対する恐怖心です。これを克服するためのハードルはとても高くて、患者さんが独力で超えるのはなかなか難しいです。
でも、諦める必要はありません。私たちのように本物の無痛治療が受けられる歯科医院なら、長年悩んでいた歯の問題を解決し、これからの人生を明るくすることができます。まずはひとりで抱え込まず、気軽な気持ちで相談に来てください。そうすれば、きっと解決法をお伝えできると思います。