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【著者インタビュー】産後ケアリストである川村美星氏が著書「パパになる前に知っておくべき11のこと」に込めた思いとは
出産後のママは赤ちゃんを迎えた喜びを感じると同時に、育児への戸惑いや孤独感で押しつぶされそうになっています。赤ちゃんの体調が気になって仕方ない、家事が回らない、姑や実母とうまくいかないなど、不安や悩みは尽きることがありません。 核家族で頼れる人もなく、一人苦しみ「産後うつ」を発症する人は10人に1人とも言われています。厚生労働省の発表では、2015年から2016年の2年間で、出産後1年未満で死亡した妊産婦の数は357例。そのうち、自殺は102例と死因のトップでした。多くは産後うつが関係していると考えられています。 このインタビューでは、悲しい現実に目を背けることなく、パパがキーマンとして、どうすれば産後うつからママを守れるのか、川村氏が著書『パパになる前に知っておくべき11のこと』にこめたメッセージ、本書では書ききれなかった思いについて聞きました。
なぜ産後うつは起こる? ママからのSOSをキャッチして
――出産後の「マタニティブルーズ」は何が原因なのでしょうか。
出産後の女性の多くが「マタニティブルーズ」を経験します。「眠れない」「元気が出ない」「イライラする」などの症状が現れ、パパを驚かせます。何でもないことで泣き出したり、突然黙り込んだりと、パパからすると不思議で仕方ない様子が多々見られると思いますが、実はママ自身も気持ちのコントロールができなくなり苦しんでいるのです。
原因のひとつは産後に起きる「ホルモン分泌の変化」にあります。
産後に女性ホルモンが急激に低下すると、「眠れない」「元気が出ない」「イライラする」などの症状が現れるようになるのです。ただし、この状態は出産から2週間ほどで治まります。ホルモンが安定すれば本来のママに戻っていきます。
――ママにどのような症状が出てきたら「産後うつ」を疑ったら良いでしょうか。
本来は2週間ほどで抜け出せるマタニティブルーズですが、この期間を過ぎてもメンタル面の改善が見られない場合、産後うつを疑う必要があります。誰の助けもないままケアをされないと、冒頭で述べたように自ら命を絶ったり、赤ちゃんへの虐待となる行為をしてしまう可能性もありますから、いちばん近くにいるパパが、ママから発せられるSOSを見逃さないようにしなければなりません。
眠れない、食欲減退、自分を責める、笑顔が消える、泣いてばかりいる、夫婦の会話が減った…などの症状を感じたときには、第三者に相談をしてください。出産した産科、あるいは自治体の産後ケア窓口であれば、必ず親身になって話を聞いてくれます。
――産後うつに発展してしまう原因は何が考えられますか。
産後うつに至ってしまう原因は、ホルモンバランス、脳の神経伝達物質の異常や遺伝、環境の変化などが複雑に絡み合っています。
環境の変化の中では、育児による睡眠不足、自由な時間がない、育児に関する不安、話し相手がいない、社会復帰への不安、体型の変化、経済的不安などがあげられます。出産前後に引っ越しをした場合も、産後うつになりやすい傾向にあります。核家族が当たり前の現代、誰にも相談できず、産後うつを重症化させてしまうママは確実に増えています。
パパの振る舞いが、産後のママのメンタルを崩壊させる!?
――パパのどういった何気ない言動がママを「イラッ」とさせてしまうのでしょうか。
60年以上続く私たちの産婦人科医院では、孤立感を抱えたママのケア、そしてパパやご家族へのアドバイスを長きにわたって行ってきました。涙ながらに話してくれるママたちのエピソードは、男性にしてみると「なぜ、それがいけないことなの?」「じゃあ、どうすればいいの?」と思うような内容がほとんどです。
本書でも紹介している例をひとつあげてみましょう。
在宅でのリモートワークを終えたパパがソファに寝そべりスマホをいじっている。ママはキッチンで揚げ物中。そこで赤ちゃんが泣き出しました。「泣いてるよ!」とパパ。ママが「油を使ってるから、ちょっと見てくれる?」とお願いしても「リモートワークでぐったりなんだよ。それに俺だと泣きやまないし」と立ち上がろうとしません。
在宅勤務のパパを気遣い、家事はできるだけ静かにこなし、赤ちゃんも泣かせないように一日頑張ってきたママからすると「疲れているのはお互い様」と思うわけです。ここですぐに自分の気持ちを伝えて、やって欲しいことを具体的に言えれば良いのですが、たいていのママは一度思いを飲み込んでしまいます。
何度か同じようなことが続き、最終的にはママが切れて喧嘩になる。そんなことを繰り返し、少しずつ夫婦の間に溝が生まれ、離婚に至ってしまうケースも少なくありません。
――パパは解決策を求めがちですが、ママは何を求めているのでしょうか。
男性は、物事に「解決策」を求めがちです。ママがちょっとした悩みを口にすると、ああすれば、こうすればとパパは打開策を提案するのですが、ママは「それは〇〇だからだめ」と、次々に否定していきます。
このとき、ママの中にはすでに自分なりの解決策がたいていはあるものです。ただ、大変だった事実」を聞いて欲しい、そして「大変だったね」と共感し、頑張っていることを褒めてくれれば、それで十分なのです。ママは「共感」を求めているのです。
一つでも多くの家庭が幸せな日々を送れますように
――パパは出産や育児に対してどういった心持ちが大切なのでしょうか。
妊娠中の健診や、パパ・ママ教室に参加されるパパの人数は年々増えています。立ち合い出産も増加していますし(現在はコロナウイルスの影響で実施を見合わせている産院もあります)、出産に関する知識をパパが勉強する機会は、その気になればたくさん用意されています。
それにも関わらず、赤ちゃん誕生後「ママじゃないとわからない」「ママのほうが上手くできる」という言葉を、パパに使ってしまいがちです。おそらく、どこか「他人事」、自分の義務ではないと感じているのだと思います。結果として、ママに比べると知識と情報が不足した状態になってしまうのです。
妊娠も出産も子育ても、初産のママにとっては初めてのこと。スタートラインはパパと同じです。パパも「一人で全部できるようになる」くらいの意気込みで、育児に向き合いましょう。
わからないことは「教えて」と聞く。教えてもらったら「ありがとう」とお礼を言いましょう。手伝ってあげているのではなく、本来1/2を担う義務があると自覚して、できるようになるまで努力することが大切ですね。
――出産後の赤ちゃんの健診はパパも付き添った方が良いのでしょうか。
ママが赤ちゃんの体重の増減や皮膚の状態、食べ物、飲み物、首の座り具合など、細々気にしているのを聞くと、パパは「そんなに心配しなくても」と思ってしまいがちです。ママにとっては、赤ちゃんのわずかな変化が気になるものです。
現在はコロナ禍で難しい面もありますが、パパがママの気持ちを共有するには、赤ちゃんの健診に同行することがおすすめです。専門の医師や看護師、カウンセラーなどに、ママと一緒に気にしていることを聞くと、ママの心配は「育児にとって大切なこと」だと認識できると思います。
▲川村産婦人科が行うパパママ教室の様子
――最後に妊娠中や産後のママ、パパにメッセージをお願いします。
今回執筆にあたった本書では、パパとママのちょっとした感じ方や言動のずれについて、具体例を出して解説しています。どう声をかけるべきか、どんなことに気を付けたら良いかなどの悩みに答えられる一冊になっていますので、妊娠が分かった早めの段階から手に取って知識を付けて頂けたら嬉しいです。
子育てを家族だけで完結しようと思わないでください。頼れるところには全て頼って良いのです。身内からの助けが望めない場合でも、近年は産後ケアについての法律が整ってきており、行政も必ず力になってくれます。赤ちゃんを迎えたことで起きる精神的、経済的、体力的な悩みは、時間が経過するほど深刻になっていくものです。できるだけ早期のうちに、遠慮せず相談をしてください。
ママもパパも幸せなら子どももきっと幸せです。そんな幸せの連鎖がつながること、一つでも多くの家庭が幸せな日々を送れること。それが私の一番の思いです。