【vol.1】デコボコベース株式会社 代表取締役CEO 上岳史さんの本棚 ―いつまでも「人の役に立つ」がド真ん中の企業でありたい―
2015年に提唱された「SDGs (Sustainable Development Goals )=持続可能な開発目標」。誰一人取り残さない世界を目指し17の目標と169のターゲットが掲げられ、2030年の達成目標へ向け、日本でも広がりを見せています。そんなSDGsに積極的に取り組む企業のリーダーへ、経営信念に影響を受けた本についてお聞きする連載「社長の一冊」。 記念すべき第1回目は、デコボコベース株式会社CEO上岳史さんに、経営に影響を受けた1冊とこれからの社会に求められる会社経営について語っていただきました。同社は、幼少期から成人期までの発達障害の方の自立に向けた支援事業を、全6ブランド・全国200拠点に展開しています。
社長の一冊 『Weの市民革命』(佐久間裕美子著)
「すべてはステークホルダーのために」。書から学んだ経営のあり方
――今回選んで頂いた一冊、『Weの市民革命』との出会いを教えてください。
私はサーフィンが好きで仲間とよく泊まりがけで遊びに行きます。夜は焚火を囲んで仲間内で事業や経営について語り合うのですが、その際に友人の一人が「上と似たような価値観が書かれている本がある」と教えてくれました。そこから興味を持って手に取ったのが始まりです。とても影響を受けて何回も読みましたし、社内のメンバーにも読書感想文を書いてもらったほどです。
――書籍の中で、一番印象に残っている言葉やポイントはどのようなことでしょうか。
「すべてはステークホルダーのために」というキーワードです。ステークホルダーとは、組織の活動によって影響を受ける利害関係者を指す言葉です。例えば、株主・社員・顧客・取引先などが該当します。日本ではまだまだ「全てはお客様の笑顔のために」が主流かもしれませんが、この書籍はアメリカについて書かれた本です。ステークホルダーのほうが経営の本質に近いですし、いずれ日本にもそうした流れがくるだろうなと感じました。書籍には「日本はグローバルから遅れており、取り残されている。しかし、遅れているけども必ず入ってくる」という記述もあり、非常に共感しています。
―書籍から学んだ、感じ取ったポイントはどのように経営に活かされていますか?
時代の変化が激しい中で、会社経営としてどう対応していくのかを考える際に大事なことは、世の中のトレンドをみることだと考えています。この本には「Z世代の考え方」も述べられています。
世の中のトレンドを作っていくのは若い人達であるべきだ、と私は思っています。私自身50歳になりますが、もう世の中の中心から外れていっているという感覚があります。若い世代の方が長く生きるわけで、むしろ私たちの世代は、次の世代のために何ができるのかを考えてサポートする側に回るべきだと思うのです。次世代のためになにができるのか?という観点でも、この書籍は私の経営の在り方を見直すきっかけになりました。
―具体的にはどのような在り方になりますか?
弊社では毎年、年始に「1年のテーマ」を社員たちに伝えています。昨年は「ワンチーム」や「多様性」をテーマにしていましたが、今年は「エンパワーメント(権限委譲)」「カスタマーサクセス」「八方よし」の3つ、としました。
1つ目の「エンパワーメント(権限委譲)」は、役員がもっている権限をリーダーに落とすことです。グローバルな世界で、パワーが市民にシフトしている考え方を会社(コミュニティ)に置き換えて、パワーを上位職の人間が持つのではなく、できるだけ現場に近いスタッフかつ多くの人数に持ってもらいたいと考えています。具体例として弊社では、会社の財務状況を月次で全社員に、毎週の役員会の議事内容を上位20%のリーダー層に公開するようにしています。これにより、会社経営をより多くのメンバーに自分事化してもらうというねらいがあります。
2つ目は「カスタマーサクセス」。以前は「カスタマーファースト」と言っていましたが、それでは足りない。その人がなぜ私たちのサービスを選び、何を求めているのか。サービスを受ける一瞬ではなく、中期的・長期的にその人の人生のサクセスになれるように、自分たちがどうサポートするか、という考え方で社員たちも動いて欲しいと考えました。弊社のサービスは「障害者の経済的・社会的自立」をゴールにしていることもあり、社員には共感してもらえているようです。
3つ目の「八方よし」。これは「すべてはステークホルダーのために」のキーワードからとりました。私は前職で上場企業を経営していたこともあり、今までの資本主義的な上場、株主至上主義には見直す余地も多いと実体験から感じています。SDGsの考え方的にも、これからは誰かが一人勝ちするのではなく、株主やお客様以外の、社員やその家族、社会のコミュニティ、取引先など、関わる全ての人たちが少しでも良くなるアクションを考える必要があると思います。そうした意識を社員一人ひとりにも持ってほしいと考えました。
我々が起点になって、「凸凹が活きる社会を創る」
――貴社は昨年(2021年)に「パッピーテラス(株)」から「デコボコベース(株)」へ社名変更をされましたね。なぜ社名変更という大きな決断に至ったのでしょうか。
私はこれまでES経営(※Employee Satisfaction=従業員満足)を志向してきました。しかし、冒頭で申し上げた通り、これから社会の中心を担っていくのは20代・30代のメンバーであり、会社経営についても次の世代への交代を考えています。
そのため、いま30代の副社長に経営の意思決定の委譲を進めているのですが、次世代の経営体制を考えた際、社員との関係、働く価値観の変化をふまえると、ES経営からCS(customer satisfaction=顧客満足)経営に変えるのがいいだろう、と判断しました。
そのうえで、これから会社が目指す在り方について、ステークホルダーへメッセ―ジとして送るのに、会社名を変えることが一番良い方法だと考えたのです。新社名は「凸凹を取り巻くすべての人の安全・安心の基地でありたい」「障害福祉業界のイノベーションの出発点でありたい」という想いから名付けました。
弊社は株式会社というかたちをとっていますが、いわゆる営利追求の会社ではなく、あくまで「凸凹が活きる社会を創る。」というビジョン達成に向けて活動する「大きな社会的コミュニティの中心部」として位置付けたいと考えています。
―会社のビジョンでもある「凸凹が生きる社会」とは、どういった社会を想像されていますか。
自分がマイノリティである経験って、何気ない日常の中にあると思うんです。先日あるレストランに行った際、私以外が全員女性客だったことがあり、その場においては自分がものすごいマイノリティであると感じました。なんというのでしょうか、心がざわざわするような居心地の悪さのような違和感です。マイノリティになった瞬間に、私たちは普段の自分を出せなくなる傾向があります。でも場所を変えれば、社会にはいろいろなマイノリティがあります。あるコミュニティではマジョリティの方も、別のあるコミュニティではマイノリティになりえるのです。
凸凹が活きる社会とは、マジョリティ・マイノリティといった、他者との相対的な比較ではなく、過去の自分との成長の比較を主軸に、自分自身のオリジナルな人生をだれもが楽しめるような社会を想像しています。もっと簡単に言うと、みんながいきいきできればいいなと思っていて、まず私たちは仕事を通して、発達障害の人たちの人生を少しでもプラスになれるようにしたいなと思って活動しています。
―上社長が発達障害・福祉教育の世界に舵を切ったのはどのような経緯だったのでしょうか。
私は小さい頃から「お金持ちになれば幸せになれる」と思っていました。お金持ちになるには、仕事で成功=上場することと考えていて、大学生の時に起業し、社会の追い風もあってそこから10年で上場を果たしました。しかし、いざ上場してみたら自分が描いていた未来とは大きく異なり、友人や家族との時間もほとんどなく、頭にあるのは仕事ばかりの常に重圧に追い立てられるような日々でした。自分が求めていた幸せはそこにはないと思いました。
そこで、あらためて自分の求めていた幸せを見つめ直したんです。そんなとき、両親が教育関係の仕事をしていたのもあり、ふと「教育」というワードが浮かんできたのです。また、震災ボランティアへの参加をきっかけに「困っている人の助けになりたい」という強い気持ちと、今までの経営などの自分の経験をシェアしたいという気持ちが芽生えてきました。そうしたことがかなえられる仕事がいいなと模索しているなかで、この事業に辿り着きました。42歳の時でしたね。人生も折り返しの時に自分の求めていた幸せを見つけられました。
「人の役に立つ」が主軸にある「ソーシャルカンパニー」の先駆者へ
――貴社が世界的な動きであるSDGsに賛同・参画したきっかけを教えてください。
私は事業を通して大きく「世界平和に貢献したい」と思っています。その中で、私が基本的なテーマにしていることは「差別」です。自分が高校時代にアメリカに留学していたことが原体験になっています。マイノリティが理由で差別されない世の中を作りたいなと、私たちの事業自体もSDGsに近い考え方で運営しており、事業としてはSDGsが掲げる17のうち13項目ほどを広くカバーしています。
少し前までは「お金もっているほうがカッコイイ」という思考がありましたが、次の時代のかっこよさは「社会にとって良い価値を提供している」が主軸にくると思っていますし、グローバルではそうなっています。ですので、そこに早めに身を置く準備をしておきたいです。
―SDGsの達成ターゲットである2030年、どのような企業でありたいでしょうか。将来展望をお聞かせください。
「ソーシャルカンパニー」というカテゴリを確立させたいですね。私が考える「ソーシャルカンパニー」とは、株式会社とNPO法人の間のコミュニティです。儲ければ儲けるほど良い、ではなく、儲けたお金を社会に対してどう使うかに価値を置く存在です。人の役に立ちたいというNPOの考えを持ちながら、大企業と同じような福利厚生がある会社として、「ソーシャルカンパニー」というカテゴリのロールモデルになれればと思います。そうした経営を志すと、自然とSDGsの項目にはマッチする会社になっていくと思いますね。いつまでも「人の役に立っていたい」がド真ん中にある会社でいたいです。