[PR]
【著者インタビュー】アイデアや感性を活かした「家づくり」を夢見る建築士へ贈る一冊『新世代建築家(アーキテクト) への道』に込めたメッセージとは?
「工務店を経営しながら意匠もできる異色の建築士」と呼ばれることも多いというアドヴァンスアーキテクツの松尾享浩社長。 建築業界での約30年間の歩みを振り返るとともに、これからの建築家を意味する「アーキテクト」という在り方についてまとめた著書『新世代建築家(アーキテクト)への道』が、2021年7月2日に発売になりました。 本インタビューでは、今回の出版に至った経緯や本書に込めた思い、未来の建築家に向けてのメッセージを聞きました。
自らの歩みを振り返りつつ、建築士の新たなキャリアを提案
― 今回、『新世代建築家(ルビ:アーキテクト)への道』を出版された経緯や思いについてお聞かせください。
私はこれまで約30年、建築業界で生きてきました。アドヴァンスアーキテクツという注文住宅専門の建築会社(工務店)を設立し、意匠(デザイン)を手がけるようになってからは20年弱になります。いまでは関西圏において、注文住宅を建てる際の有力な選択肢の1つとして、広く知られるようになりました。
また、会社経営とは別に個人で作家活動も行っており、近年ではイタリアやドイツ、フランスなど海外の建築デザイン関係の賞をいただくことも増えてきました。
ようやく、建築の世界で成し遂げたいと思い描いていた夢が実現しつつあります。そこで、自分のこれまでの生き様や建築に対する思いを、書籍としてまとめてみることにしたのです。
― 本書には、松尾社長が歩んできた山あり谷ありの人生模様が描かれています。それとともに、「アーキテクト」がキーワードになっているように感じます。
「アーキテクト」とは本来、建築士とか設計者という意味の英単語ですが、本書でいう「アーキテクト」とは、家づくりの分野でマルチに活躍できるスキルを持つ建築士のことを指しています。
実は、私と同じような思いを持ちながら、なかなか意匠に携わることのできない建築士が世の中にはたくさんいます。当社の社員もそうですが、かつて勤めていた設計事務所やハウスメーカーで、本当は意匠をしたいと思っていても、実際にはドラフターで申請図面を描くだけだったというケースが少なくありません。
本来なら、施主からオーダーを受け、自分のアイデアや感性を活かして「家」という作品をつくりあげることを夢見ている人が多いはずです。おそらく、建築を学んでいる学生のみなさんも同じでしょう。しかし、なかなか思い通りにはいかない現実があります。
日本では中小工務店が注文住宅の重要な担い手になっていて、木造在来工法では約 50%、2×4工法でも約 35%を手がけているとされます。ただ、住宅着工数は年々減少しており、中小工務店がこれから生き残るには、柔軟な対応力やリーズナブルなコストに加え、新たな強みを持つ必要があります。それがデザイン力なのです。
そのためには優れたアイデアや感性を備えた建築士の存在が欠かせません。注文住宅という「家づくり」の領域において、意匠だけでなく、予算や工程の管理、さらにはアフターメンテナンスまで含めてトータルに担える建築士が「アーキテクト」なのです。
今回の書籍は、建築の世界で、設計本来の醍醐味である意匠に携わりたいと思っている若い建築士や建築を学ぶ学生たちと、今後の生き残り戦略としてデザイン力を新たな武器にしようと考えている中小工務店、この双方が手を結んでwin-winの関係になる未来を、「アーキテクト」という存在を通じて提示したいという思いもありました。
― 若手の建築士や建築を学ぶ学生にとって、中小工務店の魅力やメリットをもう少し詳しく教えてください。
若手の建築士や建築を学ぶ学生が就職を考えるとき、まず頭に浮かぶのは設計事務所やハウスメーカー、ゼネコンでしょう。
一流の設計事務所であれば、美しいデザインや素晴らしいディテールに触れ、そのための部材の構成や選定のスキル、オリジナルな視点からの思考など、多くを学べるのはたしかです。ただ、そうしたスキルや知識を実際に発揮するチャンスには、なかなか恵まれていないというのが現実ではないでしょうか。
また、ハウスメーカーやゼネコンは多くのクライアントを抱えているものの、組織が大きいため業務が細分化されており、デザインに携われるメンバーはごく一部に過ぎません。それに対し工務店なら、注文住宅に限りますが、施主との打ち合わせから設計、施工、さらにはアフターメンテナンスまで関わることができます。
そもそも個人の施主の場合、予算が限られていることがほとんどで、施主にとって満足度の高い「家づくり」には意匠だけでなく、綿密な見積りや工程管理が不可欠です。そうしたトータルな経験を積むことは、建築士にとっても大きな強みになるはずです。
▲松尾氏が手がけた新築物件の施工例
いま、日本中にクリエイティブな工務店や経営者が増えている
― これまでの松尾社長の歩みが実は、「アーキテクト」への道のりだったともいえますね。
そう思います。ただ、その道のりは決して平たんなものではありませんでした。詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、子どもの頃、私の家はとても貧乏で、中学を卒業したらすぐ働くつもりでした。しかし、友人の勧めもあって、たまたま地元の公立高校の建築科に進んだのです。
進学した当初は「建築家になろう」と考えていた訳ではありません。ただ、手先が器用で模型づくりが得意でしたし、建築で求められるロジカルな思考も好きでした。全国規模のコンクールで入選したことなどから次第に建築に対する関心が深まり、首席で卒業することができました。
とはいえやはり、大学へ進学するほどの余裕はありませんでした。大手のゼネコンに就職し、そこで現場監督の経験を積み、二級建築士と二級施工管理士の資格を取ったのです。
ゼネコンは給料も良かったのですが、手がけるのは基本的に大規模施設です。次第に建築士として独立し、自分で住宅の設計に携わりたいという気持ちが強くなり、24歳のとき、地元の工務店に移りました。この会社では、高級注文住宅の現場監督として積算や施工の合理化を進めた実績が認められ、27歳で部長に昇進。一級建築士、一級施工管理士にもなりました。
しかし、受注した住宅の設計はすべて社長が行っていて、いくら頼んでもやらせてもらえません。このままでいいのか悩んでいたとき、友人から誘われて立ち上げたのが、アドヴァンスアーキテクツです。
最初は実績も何もなく、ローコストの分譲住宅の設計・施工を引き受けたりしていたものの、資金繰りの難しさや理不尽な嫌がらせなど、苦労が絶えることはありませんでした。
注文住宅専門の工務店として法人化した後も、何度となく倒産の危機に見舞われながら、社員や取引先、そして何より施主の方たちに恵まれ、少しずつですが経営の基盤を固め、名前も知られるようになりました。
さらに、5年ほど前からは海外の建築デザイン系の賞をもらうことも増えました。工務店がこうした賞を獲得するというのは、通常はなかなかないことだと思います。
― ほかの工務店や建築士でも、松尾社長と同じようなことは可能でしょうか。
周囲からはよく、工務店を経営しながら意匠もできる異色の建築士などと言われたりもしますが、私にできることがほかの工務店や建築士にできないことはありません。実際、最近では全国各地にアイデアや感性を備えた建築士を擁し、デザイン性を武器にハウスメーカーや大手ビルダーと対等に渡り合う工務店が増えているんですよ。
その背景には、予算は限られていても、気持ち良く暮らせて安心・安全、しかもセンスある家をつくりたいという施主が増えている状況があると思います。
私自身これまでそういう家を設計・施工一体で手がけることで、多くの施主に喜んでもらいました。受注もそうした方たちの口コミや紹介が中心です。
今回の書籍を通じて、そういう家づくりができる工務店やアーキテクトの存在を多くの人に知ってもらい、とりわけ若手の建築士や建築を学ぶ学生さんたちに「こういう道も悪くないな」と思ってほしいですね。経営者も職人も高齢化が進んでいる工務店業界に、若くて優秀な人材が入ってきてくれたら、これほど嬉しいことはありません。
建築士が活躍できるステージや領域はもっと広い
― 松尾社長の今後の抱負や目標についてお教えください。
これまでいろいろ苦労しましたが、「建築が好き」という一念でやってきました。今後も多くの施主の方たちに喜んでもらえるよう、リーズナブルでデザイン性の高い家づくりを手がけていきます。
また、工務店経営のスキルやノウハウを活かし、同じような志を持つ工務店のサポートをしたり、意匠の経験をもとに教育の場で若手の育成にあたったり、あるいはチャンスがあれば海外での家づくりに挑戦することも考えています。
グローバルな時代になり、建築士が活躍できるステージや領域はどんどん広がっています。日本でしか通用しない“常識”にとらわれず、多面的かつ国際的な活動をしていきたいですね。
― 最後にもう一度、建築の世界にあこがれ、自分の力を試したいと思っている若い人たちへ、メッセージをお願いします。
建築家として「こうなりたい」という強い想いを持って頑張ることは大切ですが、イメージに捕らわれ過ぎると、自分の未来を狭めることになってしまうようにも思います。
むしろ、状況に応じて少し回り道をしたり、自分の関心の幅を広げてみたりすることで、建築士として活躍できるステージや領域がもっと広がるはずです。
建築の世界にあこがれ、自分の力を試したいと思っている若い人たちにはぜひ、「アーキテクト」という在り方を知っていただき、建築士としての新しい可能性にチャレンジしてほしいと願っています。