DX戦記

【第5回】1,500日もの日々を戦い抜いた結果、僕たちは進化した

Column

プロジェクトをスタートしてから4年、プロパティエージェントは社内DXを実現した後、新たなビジネスモデルを創出していく。

本記事では、プロパティエージェント1,500日の戦いと次なるDXへの果てなき挑戦を解説していきます。

賃貸管理・中古物件・営業・バックオフィス…社内全体がDX化へ

導入判断を明確にしたことで、社内DXは着々と進むようになった。PDCAのCとAの徹底によって無駄なアプリケーションの導入が減り、実装したアプリケーションの効果も継続的にモニタリングするようになった。

結果、社内の業務フローは変わり、業務環境も激変した。オフィス全体を見渡してみても、紙で溢れていた光景が変わり、フリーアドレスでPCやタブレットを使って生産性を考え仕事をするのが当たり前になりつつある。

目に見える効果も生まれた。手間とコストの軽減効果が大きかったDXの一つは、賃貸管理部門と入居者のやり取りのDXだ。更新の対象者リストが自動でシステムにインポートされ、意思確認が必要になったタイミングで自動的に入居者にSMSでメッセージが送信される、入居者とのやり取りを支援するアプリケーションを開発した。

中古物件を扱う部門では、自社製RPAの導入がうまくいかなかった失敗を踏まえて、 物件情報が書かれたマイソクを読み込む画像認識アプリケーションを導入した。その結果、最も時間を取っていたマイソクの読み込みと入力作業が大幅に削減できた。

バックオフィスの業務もDXが進んだ。例えば、従来の会計システムは電子帳簿保存法に対応するためリプレイスし、法律を踏まえた処理ができるようになっただけでなく、処理の手間が削減でき、処理速度も速くなった。

営業面でも、CRMツール導入以降は、顧客のステータスに合わせた営業ができるようになり、その過程で顧客情報が蓄積されるようになった。担当者個々についても、フィールドセールスとインサイドセールスの結果が可視化できるようになった。単純に結果を把握するだけでなく、分析の質も向上し、その変化や傾向を可視化することで、ミドル層のマネジメントも変化していった。

社内DXの先を考えるのであれば、働き方の変革や経営体質の改善で満足してはいけない。アナログからデジタルへの置き換えをデジタル化とするなら、デジタル化したデータなどをリソースとして活用し、新たな価値を生むのがDXだ。

不動産投資×DXで付加価値を生み出す

ある新たな商品価値の創出、いわゆる不動産投資のデジタライゼーションという点で、 僕には一つ温めているアイデアがあった。不動産を複数の投資家で所有する少額投資のサービスだ。スマホで簡単に1万円から不動産投資ができる仕組みで、出資金に応じて家賃収入などの一部を分配金として受け取る。不動産クラウドファンディングだ。

しかし、多数の契約書を作成し、分配金を支払う手続きに手間が掛かる問題があったが。それを解決したのが電子契約だ。申し込みの受付から分配金の支払いまで基本的に自動化されたこのサービスはリリース後、わずか1年後には14万人の会員を擁し、投資の募集金額に対して毎回500%の申し込みを受けるサービスに成長する。DXを先行したことで、不動産投資という商品に新しい価値を加えることができた。

リアルな空間と仮想空間をつなぐ顔認証IDプラットフォーム

次に、DXによる新規事業の創造について考えてみた。それは、建物そのものをDXすること。AIの技術が進化し、顔認証が世界的に普及し始めている。その顔認証を設備として導入しつつ、顔認証データをIDとして登録し、クラウドで管理することによりエントラン ス、エレベーター、メールボックス、宅配ボックス、玄関ドアなどを文字どおり顔パスで使えるようにする。

建物の出入りだけでなく、IDがその他と連携し、同じIDで自動販売機で飲み物が買えたり、集客施設に入れたりするようになれば、そのマンションの住民であることの価値が高まる。顔認証のサービスが拡充、いわゆるマンション以外でその顔認証IDが利用できる場面が広がっていくことで、劣化するマンションはユーザーにとっての利用価値という点でむしろ進化するマンションになる。

ただ、それだけではマンションという商品のDXにとどまってしまう。そこで考えたのが、IDの管理と活用を事業にすることだ。顔認証システムはさまざまな大手企業が認証のエンジンを開発しているが、現状はそれぞれが独立した状態で稼働している。つまり、A社の顔認証はA社提供の施設などでしか使えず、B社の施設を使うためにはB社の顔認証システムで登録しなければならない。

そこで顔認証のデータのプラットフォームを作ってはどうかと構想した。各社のエンジンをプラットフォームに乗せることで、A社の顔認証エンジンで登録した人がA社以外のエンジンで顔認証する施設も利用できるようになる。

そのような社会を実現するため僕たちはさっそく顔認証IDプラットフォームDXYZという会社をつくった。現在ではすでにオフィス、ゴルフ場、工場、東京タワーにあるアミューズメント施設、無人店舗、工事現場や保育園、大学の施設等で導入され、マンションにおいては顔認証マンションが多数竣工し、入居者からは高い評価を得て、他社のデベロッパーからの受注にも至っている。

社内DXを通じてDXリテラシーを高め、今後のテクノロジーの発展や可能性に目を向けてきたことによって、僕たちは発想や構想の面で不動産業界という枠を自由に出たり入ったりできるようになっていたのだ。

会社が変化していく中で、社員も事業も制度も商品も変わり続けている

会社の価値向上は、社内業務のデジタル化を考えたときに目指したものの一つでもある。 僕は社内業務のデジタル化により、働き方、経営体質、そして会社の価値とあり方を変革したいと思った。そのための手段として、デジタル化が不可欠であり、DXが武器になると思った。

今後も社会のDXニーズは高まり、DXが分かる人材の需要もさらに大きくなっていくだろう。そう考えて、僕は引き続きDXの知見が彼らの価値向上に結びつく未来を思い描きながら、現場社員を社内DXに巻き込んでいった。

DX に取り組んできた1500日を振り返っても、DXをゼロイチで始めるのはかなり難しく、 できないことはないが時間が掛かる。しかし、会社主導でDXに触れる機会をつくっていくと、次第に興味をもつようになる。楽しくなり、好きになる。DXで仕事がラクになり、単純作業から解放されるようになる成功体験をもつと、その実感がクセになってもっと興味をもつようになる。

自分で学ぶようになり、業務 効率化やIT活用を考えるようになり、自分の力で自分の価値を高めていけるようになる。重要なのは、このサイクルをつくることであり、このサイクルに社員を巻き込んでいくことだ。

デジタル化を通じたオペレーショナルエクセレンスの実現を呼びかけ、社員が変わり、会社が変わった。振り返ってみて思うことは2つある。

1つは、この数年間の取り組みがとても苦しかったということ。おかげで社内DXが進み、社員のDXリテラシーも上がったが、もう一回やるかといわれたら、やりたくない。どうしてもやらなければならないのであれば、知見がある人をサポートに付けて、最速、最短の方法でやるだろう。

もう1つ思うことは、落とし穴にはまり続けてよかったということだ。落ちたときの痛みと這い上がる大変さを経験した分だけ、僕たちは知見を蓄えることができた。次はその知見を、より多くの人に伝え、誰かのために役立てるステージだと思っている。

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