DX戦記

【第3回】DXメンバー選定の落とし穴。「社内のITに詳しい人」は本当に適任?

Column

2019年に入り、DXが注目され始め、より深くDXに触れた中西氏はただ単にデジタル化を推進するのではなく、本当の意味で生産性を上げ、顧客価値のためにも競争優位性を持ち得るために、プロジェクトメンバーの刷新に踏み出す。

中西氏はDX担当の人材をどのように見つけたのか、本記事では、DXチームのメンバー選出の軌跡とポイントを解説していきます。

2019年、注目され始めた「DX」

2019年に入り、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が世の中で注目され始め、僕たちが目指す社内業務のデジタル化、つまり書類のデータ化や業務フローのデジタル化による事業や業務の変革がにわかに騒がれ始めた。

これからはDXの時代であり、単なるアナログからデジタルの置き換えにとどまらず、データ活用などによって新たな価値を生み出す取り組みが重要になる概念に触れて、僕が構想する社内業務のデジタル化はDXなのだと思った。社内業務のデジタル化で狙っている効果も、オペレーションを根本的に変えるという考え方も、僕たちの取り組みと共通点が多く、親和性が高いと感じた。

悪戦苦闘している現状の取り組みにも価値が出るのではないかと思った一方で、この現状を素直に喜べない気持ちもあった。その焦りと、足踏み状態が続いているもどかしさを感じながら、プロジェクトチームで週1回の定例ミーティングを続けていた。

プロジェクトメンバーの刷新 本気でDXに取り組むために必要な人選とは

僕はただ単にデジタル化を推進するのではなく、本当の意味で生産性を上げ、顧客価値のためにも競争優位性をもち得るためにも本腰を入れるしかないと思った。そのためにはプロジェクトメンバーにも本気で取り組んでもらう必要がある。

僕はプロジェクトチームの刷新に踏み出したのだ。現状、メンバーの2人は所属部門の業務と兼務でプロジェクトに関わっている。兼務では基本的には所属部門の仕事が優先になるため、時間や労力に限りがあり、DXに本気で取り組んでもらうことは難しい。DXの取り組みが片手間になるだけでなく、負荷が大きく忙しさも増すため、そのせいで本業の仕事に取り組むモチベーションも下がりやすくなる。

僕は「ITに詳しそうだから」という理由でメンバーに選出した。しかし、DXはそんなに甘いものではなかった。当初のメンバー2人を専任にできるかというと非常に難しい。 1人はマーケティング部門に必要な人材で、彼を引き抜くわけにはいかない。もう1人の総務の情報システ ム担当はDXと関係のないところでの業務がたくさんある。ほかの部門の状況も同じだ。 どの部門でも社員はそれぞれ役割をもって仕事に取り組んでいる。DXプロジェクトの専任として引き抜ける人はいない。必要最小限の人数で仕事を進めている中小・中堅企業では簡単に専任担当者をつくることができないのだ。

本気でDXに取り組むのであれば、会社もそのためにリソースを注入しなければならない。DXプロジェクトのリーダーに適した人をメンバーにして、専任で関わってもらう必要がある。

そこで僕は、プロジェクトメンバーを外部から調達しようと決めた。社内に専任になれる人がいないなら外部の協力者を獲得するしかない。専任のプロジェクトメンバーを新たに採用して、DXチームをつくろうと決めたのだ。

コンサルテイング会社、採用活動…ようやく始まった人探し

既存のメンバーには、新たなメンバーを採用するまでの間、DXに向けたヒアリングと勉強を続けながら並行して専任でDXを担当できる人を探す。新たなDX担当者やDXチームができたところで、当初のDXチームは解散となり、新たなチームがDXを引き継ぐことにしようと考えた。

人探しに取り掛かるうえで、最初に考えたのがコンサルタントだった。しかし、この時はまだDXが世の中に広がり始めたばかりで、その分野を専門とするコンサルティング会社が少なかったのかもしれない。デジタル化には強いが、生産性向上を実現するDXに取り組む会社は少なく、大手は別として、中小・中堅規模の会社からの支援依頼も少ない状況だっただろう。

コンサルタントの活用では、もっと大規模な会社に依頼する選択肢も考えてみたが、予算的に中小企業や中堅企業が支払える金額を超えてしまうことがほとんどで、僕たちの場合もそこまでDXに掛けられる予算はなかった。

コンサルティング会社がだめなら、知見がある人を採用するしかない。具体策を示し、実行できる人材をどこかで見つけて引っ張ってくる。その人をDXプロジェクトの専任担当者にしてスピード感をもってプロジェクトを推進する。

僕が重視したDX担当の素養はITの知見やリテラシーよりもコミュニケーション能力と地頭だ。採用の募集広告はすぐに反応があったが、どの人も僕が求めている人材ではなかった。

運命を変える“サイトウ”との出会い

幸運に恵まれたのは採用を始めて2カ月ほど経った2019年4月のことだった。役員

の1人が知り合いのツテをたどり、サイトウという人物を見つけてきたのだ。

面談で彼こそがDX担当にふさわしいと思った。時代の一歩先に目を 向け、変革の意欲もある。コミュニケーション能力も高い。さらに不動産業界のDXという難しい挑戦を「面白そう」と言い切ったことに地頭の良さとタフさを感じた。

サイトウをリーダーとする新たなDXチームづくりのために新メンバーの採用も進めた。採用基準で重視した条件はコミュニケーション能力、課題解決能力、新しいテクノロジーに触れている、という条件だった。

会社に届いた履歴書は200通を越えた。このうち、サイトウが面談したのは80人、僕が最終面接を行ったのは4人で、そのうちの2人を採用した。 前職は、1人は旅行業界、もう1人は量販店でIT関連業務の担当として働いていた。不動産業界の人よりも異業種の人のほうがITに詳しいだろうと思ったし、業界外を知るメンバーが加わることで、 僕らには思いつかないような新しいアイデアが出てくるなど良い化学反応が起きるのではないかと思ったのだ。

こうして社内DXをキーワードとしてプロジェクトチームを刷新し、変革に向けた取り組みが本格的にスタートした。しかし、そのことに安心したのも束の間、僕はすぐに次の落とし穴にはまっていくことになる。

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