【第6回】リーダーが「裸の王さま」にならないために必要な心構え

リーダーが謙虚で、威張らない人間であれば、メンバーはそれを真似します。そうやって習慣がヒエラルキーの下へと伝播していく。そんな組織が理想といえます。

一方で、メンバーが意見を言うとすぐに怒ったり、嫌味を言ったりするリーダーに対しては、メンバーが言うべきことを言えず、リーダーは気がつくと「裸の王さま」になってしまいます。そうした組織は長くは続かないでしょう。

今回は、リーダーが「裸の王さま」にならないために必要な心構えについて見ていきます。

メンバーは常にリーダーの後ろ姿を見ている

協調性の取れた組織であれば、やる気のあるメンバーは皆、トップ、あるいはチームリーダーの背中を見ているはずです。

さらに完成されたチームの場合は、お互いの役割が明確で、自分の立場をすでにはっきりと個々人が理解しているので、それほど後ろ姿を見なくなると思います。しかし、そこに至るまでの多くの組織やチームでは、リーダーの後ろ姿をメンバーは常に見ていると思った方がいいと思います。

反対にリーダーは、メンバーを監視するのではなく、気配りをする必要があります。その気配りは、リーダー自身のためでもあります。

仮に追い詰めれば、メンバーはごまかすかもしれません。嘘をつくかもしれません。いずれにしても正確な情報が上がってくるとは限りません。その負の連鎖が起こる。そうなれば、リーダーは本当の情報が分かりません。本気でついてくる部下もいなくなります。裸の王さまになってしまいます。

僕も、裸の王さまをこれまでたくさん見てきました。自分はそうなりたくありませんから、病院や介護施設のスタッフさんに常々、「なんでも言ってきてほしい。僕を裸の王さまにしないでくれ」と頼んでいます。

素直に意見を言ったり、情報を上げると怒られるとか、嫌味を言われるとなれば、言うべきことも言いたくなくなります。良い情報しか上げたくなくなります。そして上辺だけイエスマンになる。そうなってしまったら組織は終わりです。

もう誰もついてこなくなります。①『謙虚=成功を収める条件? 項羽と劉邦、韓信、豊臣秀吉の事例から』で紹介した項羽もそうでした。戦えば勝つ。勝つけれども、そのたびに兵がいなくなる。優秀な兵は皆、劉邦に寝返ってしまいました。最後は20人ほどにまで兵が減ってしまいます。

それでも戦えば勝つ。だけれども当然、最後には負けるわけです。これなどは本当に良い例、というか反面教師だと思います。能力はあっても人望がないとだめなのです。悲惨な末路になってしまいます。

項羽のケースは戦乱の世の話ですが、民主主義の時代でも同じようなことを繰り返している人は決して少なくありません。自分がいちばん偉いと思っている人たちがいるわけです。まさに裸の王さまです。

自分を変えずに周りを変えることはできない

最近、「老人が切れる」という問題が起こっています。加齢により認知能力が下がると、そもそも怒りっぽい人はそうなるのでしょう。自制心が弱くなるわけですが、そこに例えば身体がうまく動かないなどの自分に対するストレスも加わって、感情が抑えられずにだだ漏れになる。そして切れるということなのだと思います。

一流企業の管理職など、成功体験が強いと、年を取ってそうなる確率が高いように思います。我慢できないのです。そもそもビジネスパーソン時代に部下にがみがみと文句を言う。それが許されていて、むしろ、それが地位の証明みたいになっていれば、そのプライドを退職後も引きずってしまう。

それは実はプライドでもなんでもないということに早く気づいてほしいのですが、それができない。企業のなかですでに裸の王さまという人は多いものです。

そういう人が例えば子会社に出されると、現場と間違いなく軋轢を生む。自分を環境に合わせて変えるという気がないからです。

自分を変えずに周りを変えようとする。それは無理です

だからこそ、「謙虚力」です。謙虚さがむしろ必要なのは、役職の上の人、組織のリーダー層なのです。それが組織のためでもあり、また自分のためでもあるのです。力を持てば持つほど謙虚になって、自らを戒めることが大切です。

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という有名なことわざがあります。稲は、実が熟すほど頭が重くなって、垂れ下がります。これこそが実りの秋の象徴です。

これと同じように、人間も徳を積み、知識を増やすほど頭を下げる、まさに謙虚になるという意味です。逆に人間が小さいほど尊大に振る舞う、つまり虚勢を張る。その反対を意味するわけです。

多くの人は自分の意見を聞いてくれるチームに献身的になる

会社などでチームや組織全体の意思形成を行う場合、一般的にはヒエラルキーのパワーを使います。上意下達です。命令と言ってもいいでしょう。方針の徹底のほとんどはそうだと思います。

次に、そうして決まった方針をどのように実行するかなどという段階になると、現場で会議などを開いて話し合いを行い、意見を出し合って、方法を決めます。

この場合も時間が限られますから、ある程度意見が出たら、多くはチームリーダーが結論を出します。議論が低調であれば、ほとんどリーダーからの上意下達と同じになります。

普段の案件はそれでいいと思います。しかし、特に変革期における方向性や方法の変更などは、そんなふうに押し切ってもうまくいきません。本当に組織が変わるかというと上辺だけで、反対や不満が陰にたまります。

そんなときにこそ、傾聴力の出番です。説得して納得させるのではなく、聞いて、聞いて、聞き出しながら、誘導していく方法です。

もちろん、その場合は精神科医とは違って、まったく語らないわけでも、絶対に同意しかしないわけでもありません。しかし、できるだけ自分からは言わない、できるだけ否定しないという前提は同じです。

その際に、自分も謙虚になることが大切です。そうなっていれば、何がなんでも誘導しようというのでなく、素直に、それこそ我を一度棚上げして相手の意見を聞くことになります。

そのため押しつけではなく、相手の意見の良いところを取り入れ、より良い結論を導くことができる。あるいは、方向は決まっていても、そこに向かうためのベストの布陣や戦略を練る役にも立ちます。

そして何より、そうした聞き取りを密に行うことで、集団の意思形成が無理なく行われるはずです。

自分の意見を聞いてくれるチームに多くの人は献身的になるはずです。そうしたリーダーには皆、ついていきたいと素直に思うでしょう。

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