【第5回】優秀なリーダーは「定常期」と「変革期」で振る舞いを変える

マーケットは、常に好調と不調を繰り返しています。

その変化に合わせ、リーダーシップの在り方も形を変え続ける必要があるのですが、「リーダーシップの在り方を変える」と一口にいっても、それは簡単なことではありません。

今回は、「定常期」と「変革期」それぞれのリーダーシップの形と、それを時期によって切り替える上で必要な心構えについて考えます。

「定常期」に求められるのはサーバントリーダーシップ

経営学のなかに、「定常期のリーダーシップと変革期のリーダーシップ」という分け方があるそうです。

定常期というのは、企業でいえば、既存の事業がうまく回っている日常を指します。ルーチンをきっちりこなすことが基本で、その間に次の芽を育てる、種をまくという状況です。

こうした場合、既存の組織においては、基本的にチームメンバーは皆、自分がやれるべき役目をしっかりと分かっていて、やり方が共有されています。そしてもちろん、それを行う能力があり、やる気もあるという状況が一般的です。

そうした場合のリーダーは、むしろあまり目立たないほうがいいわけです。皆のやる気と日々のルーチンの邪魔をしない。その状況を最大限、手助けするという役割を担うのがいいわけです。

これをサーバントリーダーシップというそうです。サーバントとは召使いとか執事といった意味ですが、この場合は奉仕者と訳されるそうです。

うまく組織、チーム、メンバーに気配りをして、必要なケアをする。うまく回っていないところは手助けをして、メンバーの感情、メンバー間の人間関係にまで気を配る。

まさに奉仕をして、チームとして良い状態をキープし、さらに効率が上がるように仕向けるわけです。いないように見えるリーダーこそが優秀なリーダーというわけです。

変革期を乗り越えるのに必要な強いリーダーシップとは?

しかし、このままのリーダーシップで変革期は乗り越えられません。商品にはどうしても寿命というものがあります。ライフサイクルです。だから商品も進歩し続けなくてはいけませんし、ビジネスのあり方も、長いスパンで見れば変わらなくてはいけません。

不景気もやってきます。市場の飽和とか、競合からの攻撃もあります。だから、企業には絶対的に変革期が訪れます。そのときには、皆の常識を覆してでも別の方向を向かせる、そうした強いリーダーシップが必要になります。

ビジョナリー型のリーダーシップの必要性が叫ばれた時期もありました。夢のある大きなビジョンを描いて、それを説く力を持ったリーダーシップです。もちろん、そのためにはいち早く変化の、あるいは危機の気配をかぎ分け察知する洞察力や観察力が必要です。そのためにも謙虚さが求められるのです。

さらには組織のルールを変えてでも、メンバーがその方向に向く、挑戦するように仕向ける、そうした社内変革も重要です。

また、そうした方向転換を強いるわけですから、定常期とは違ったケアの仕方、鼓舞の仕方、時には厳しさも必要になります。

こんなふうにリーダーは、状況に応じて切り替えをしなければなりません。

優秀なリーダーは定常期と変革期で立ち居振る舞いを変える

変革期において、自分が変われず、定常期のままのリーダーシップを発揮していたら、その組織は時代に置いていかれます。そうなれば悲劇です。

また変革期は近い将来、変革したあとで定常期に入るものです。新たな常識の確立です。そのときになっても、まだ変革期の、いわゆる強いリーダーシップを発揮し続けたら、今度は組織が疲弊します。

だから切り替えが重要なのです。素直に切り替えられるのも謙虚さの表れだと思います。いかに視野を広くして、潮流を読めるかが勝負なのです。

「治世の能臣、乱世の奸雄」という言葉があります。これは、三国志で有名な曹操孟徳(三国の一つ、魏国の基礎をつくった人物で、のちに魏の武帝と呼ばれた英雄)が若かりし頃に人物批評家として名高かった許子将に評されたものです。 その意味は「太平の世では優秀な臣下だが、乱世になると英雄として活躍する」といったものです。

いろいろな解釈があるのですが、まさに定常期と変革期でその立ち居振る舞いを変えることが、優秀なリーダーの条件であると僕は思います。

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