【第8回】実践編!ビジネスに活きる「謙虚力」②嫌な上司&ライバル社員編

「謙虚力」は、仕事上のさまざまな悩みを突破する上でも役に立ちます。

第7回の「クレーム対応&営業マン編」に続き、今回は嫌な上司やライバル社員との付き合い方のヒントを、事例を交えて紹介します。

「謙虚力」で嫌な上司とも上手に付き合える

どこの組織にも付き合うのが嫌だなと思う上司はいるものです。実際にはさまざまなケースがあり相性というものもありますから、一概にはいえませんが、厄介な上司と付き合うためのポイントも、やはり「謙虚力」なのだと思います。

部長:「なんとか上半期に売上をあと3000万円上積みしたいんだ。新規営業に力を入れて、頑張ってくれないか?」

課長:「いやいや、ちょっと待ってください部長。それは無理ですよ。あと2カ月しかないじゃないですか。そう簡単に新規のお客さまの掘り起こしもできませんし、今は不景気ですから、既存のお客様の売上をアップするというのも容易なことではありません」

部長:「何も簡単だとは言っていないよ。しかし、今期の予算を達成するにはどうしてもあとそれだけ必要なんだから仕方がない。なんとか一つ、頑張ってみてほしい」

課長:「部長、そう言うのはたやすいでしょうけど、それを実現するのは至難の業です。数百万円の積み上げであればなんとかなるかもしれませんが、3000万円は無理です!」

部長:「おい、君!それが上司に向かって言う言葉か! なんとしてもやってもらうぞ。それができなければ、私も君もどうなるか分かったものではない」

課長:「いやいや、無理です。直前になってやっぱり無理というよりは、今分かったほうがいいのではないですか?」

部長:「君! まだ言うかね?」

課長:「ここは部下のためにも譲るわけにはいきません」

部長:「君という人間は!」

部長もこれではだめですが、ここでの主人公は課長です。たぶん、彼が言っていることは間違いないのでしょう。「部下のため」という気持ちも本心であれば立派です。

ただ、組織にはヒエラルキーがありますから、残念ながら、ひどい命令でも、ひとまず命令は絶対だと思います。自分が上の立場の場合は、そんな命令はするなと言いましたが、命令される立場であれば、致し方ないという場合も少なくないでしょう。

きついノルマであっても、嫌な上司の命令であっても、まずは努力してみるのが部下の務めなのです。

それでやっぱりだめであれば、話し合いが必要になります。一緒になって妥協点を探る必要があります。この場合であれば、例えば次のようなイメージでしょうか。

課長:「分かりました。かなりきつい目標だと思います。正直、難しいと感じますが、まずは1カ月、頑張ってみます。それでやっぱり目途が立たない場合は、改めてご相談させてください」

部長:「分かった。まずは頑張ってくれたまえ」

本来はコミュニケーションを密に取り、必要な議論として、今に合うより良いやり方を協力して見つけるのがいいわけですが、そのためには上司とメンバーの双方がお互いに謙虚でなければいけません。

こちらだけ謙虚でも、事態は良くなりません。自分が変わることが先決だと言いましたが、それは上か下かでいえば、まず上の立場の人に言いたいことです。

メンバーとしては真っ向からそんな上司にぶつかっていって議論するのがいいのですが、もしそれが叶わない相手であるならば、うまく立ち回って実を取り、その結果を持って上司の意見を変えるしかありません。

もちろん、その場合は結果がうまくいかなかったり、うまく行っても叱責されたり、手柄だけ横取りされたりするリスクもあります。しかし、たとえそうした場合でも、見ている人は見ているものです。上司は直接の上司だけではありません。自分を引き立ててくれるのは、斜め上の上司だったということは結構多いものです。だから頑張って、自分の立ち位置を守りましょう。

ただしここでも、絶対に譲れない部分は、組織の一員であっても譲るべきではありません。それこそが、自分の将来を担保するパワーになるからです。卑屈にならずに成長するための礎です。

しかし、組織ですから、なんでもかんでもわがままを言うことはできません。全体の7割は、組織や上司に従うという塩梅が大切だと思います。

足を引っ張るライバルにも、「謙虚力」で対応しよう

チームのメンバーは一致協力して仕事をし、難局にも立ち向かうのが本来ですが、往々にして意地の悪い、あるいは自分さえ良ければそれでいい、というライバルが出現することもあります。

残念ながら、仲間から足を引っ張られたり、協力を得られなかったり、ということもあるようです。そんなときも、短気に喧嘩っ早いのは考えものです。

あなた:「あの会社に入り込みたいのだけど、確か、伝手があったよね? 紹介してくれないかな」

ライバル:「なんのこと? そんなものないなあ」

あなた:「この前、さんざん自慢していたじゃない。貸しがあるとかなんとか」

ライバル:「ああ、それはそうだけど、なぜ君に紹介しなければいけないのかな?」

あなた:「別に僕がどうのではなくて、この会社の業績のためじゃないか」

ライバル:「だからって、僕が君の課の成績に寄与してもなんら得はないよね?」

あなた:「おいおい、その言い方はないんじゃないの? あの会社には我々の担当製品を売り込みたいのだから、君がその伝手を出し惜しみしたって、なんの得もないじゃないか!」

ライバル:「おい、おい、黙って聞いていれば・・・」

これでは協力どころか本当の喧嘩になりそうです。意地悪なライバルと同じ土俵で戦っても、それでは勝った負けたにしかならず、あまりに不毛です。

何が大事かを思い出せば、謙虚になれるはずです。

あなた:「そうだよね。これは悪かった。君の手札を使った僕の成績が上がるというのは卑怯かもしれない。どうだろうか? 一緒に攻めないか? うちの扱う製品だけでなく、うまくすれば君の課の扱うシステム開発も受託できるんじゃないかと思うんだ」

ライバル:「えっ? そうかな。それは考えたことなかったな。僕の伝手とは単なる飲み友達で、今までビジネスの接点があるとは思わなかったけど・・・」

あなた:「いやいや、ふと思ったのだけど・・・」

ライバル:「なるほど、それはいいかもしれないね」

あなた:「もっといえば、その提案がうまくいけば、基本、そちらの課のお客さんにしていいと思う。うちの扱う製品は、ついでに納品できればそれで問題ないからね」

これも7:3です。手柄の大部分は譲る。切り札がライバルにあるのだから、それでいい。自分たちのチームは、それで糸口ができれば、おいおいビジネスを広げていくこともできるはず。

「謙虚力」は、したたかな戦略を生むことにもつながるのです。

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