今回のインタビューVol.2では、『謙虚力 超一流のリーダーになる条件』著者である松井氏に、「謙虚力」という言葉の意味や、その力を身に付けていくための方法について聞きました。
「人間は謙虚に生きるのがいい」と歩んだ人生
――本書を出版しようとお考えになったきっかけを教えてください。
僕は小さい頃から、「人間は謙虚に生きるのがいい」と考えて生きてきました。上昇志向こそなかったものの、周りから頼まれたことを引き受け、自分なりに社会の役に立とうと努めてきたら、いつの間にか病院や介護施設、保育所などを30以上運営するグループのトップになっていました。
そんな僕から見ると、世の中には意味もなく権威を振りかざすようなリーダーが結構います。
そういう人が影響力を持つ組織は風通しが悪く、そこにいるメンバーにとってストレスになりがちです。リーダー自身も自分を見失い、何かのきっかけで取り巻きが離れていったりすると大きなショックを受けます。
リーダーが謙虚になれば、メンバーはストレスなく伸び伸びと力を発揮でき、組織の生産性も上がるでしょう。その方がリーダー自身にとっても良いはずです。
そこで、「謙虚力」についての考えや具体的な実践法をまとめてみようと思ったのが、出版のきっかけでした。
――これまでリーダーというと、先頭に立って皆を引っ張っていくイメージが強かったように思いますが、これからのリーダーはどうあるべきでしょうか。
様々なリーダーシップ論がありますが、これからの時代、謙虚なリーダーが求められていると僕は思っています。それは何も、部下を甘やかすとか責任を丸投げするといったことではありません。
大きな方向性を指し示し、小さなことにはいちいち口を挟まない。部下の判断と自主性を尊重し、いざというときはすべての責任を引き受ける。日頃からそういう謙虚な態度を心がけていれば、組織やチームのパフォーマンスは間違いなく上がるのではないでしょうか。
そうはいっても僕自身まだまだ過激になりがちで、ついカッとなることもあります。でも、自分が間違っていた、やり過ぎたと思ったらすぐ謝ります。患者さんの容態が急変したようなときは周りのスタッフにガンガン怒鳴ったりしますが、後で「さっきはごめんね」と頭を下げます。
人間だから、ときには間違えたり上から目線になったりすることもあるでしょう。でも、気がついたらすぐに改める。体裁を繕ったりせず、何事もオープンにすればいいのです。
そうすれば、自ずと風通しがよく、自由闊達な組織ができるはずです。
7割は相手の話に耳を傾け、3割は自分の意見を主張する
――そもそも「謙虚力」というのはどういう意味ですか。
「謙虚力」というのは僕の造語です。
これは、単にへりくだって相手に譲るのではなく、相手を尊重し、その話をしっかり聞きながら、自分の考えもきちんと伝え、お互いにとってより良い結果を生み出していこうとする力です。
歴史を振り返ってみても、最後に勝利を収めるのはいつも、こうした「謙虚力」を備えた人間だったと思います。
ただ、「謙虚であれ」と言われても、具体的にどう身に付ければいいのか、どう実践すればいいのか、よく分からないという人が多いでしょう。
辞書では「謙虚」を「控えめでつつましいこと」「へりくだって相手の意見などを受け入れること」などと説明してあり、その通りに振舞うとビジネスや交渉の現場では損をしてしまいがちです。
人には誰しも、譲れないものがあるはずです。それは信念であり、アイデンティティーであり、目標や夢だったりします。謙虚を旨としつつも、必要なときには言うべきことを言い、主張すべきことを主張しなければなりません。
大事なのはバランスです。僕はいつも7割は相手に譲り、自分が譲れない3割を守り抜けばいいと考えています。コミュニケーションにおいても、7割は相手の話に耳を傾け、主張するのは3割くらいがちょうどいいのです。相手の話に耳を傾けている間は、「なぜこの人はこんなことを言うのだろう」と思って聞いていれば、そう退屈することもありません。
この7:3が「謙虚力」の極意です。これを心がけていると自然に視野が広くなり、世間のしがらみに捕らわれず、自分の常識にもこだわらず、バランス良く考え、正しい道を選ぶことができるようになります。
――そのような「謙虚力」を身に付けたり、磨いたりするにはどうしたらいいのでしょうか。
「謙虚力」は一朝一夕で身に付くという訳ではありません。また、人から言われて分かるようなことでもありません。ですから僕は普段、「謙虚力が大事だ」なんて口にすることはまったくありません。
その代わりスタッフによく言っているのは、論語にある「過ちは改めるにしかず」「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」という言葉です。
何事にしろ、まずは一生懸命やってみる。でも、失敗することもある。大事なのは、上手くいかなかったとき、失敗したとき、どう対処するかです。必ず仲間や先輩、上司に相談し、反省し、次に生かしてほしいということは、口を酸っぱくして言っています。
こういうと誤解されるかも知れませんが、医療にしろ介護にしろ、不確実性が付きものです。こちらは最善を尽くしたつもりでも、上手くいかないこともあるのです。
「謙虚力」というのは自分の言動とそれに対する自省の積み重ねによって身に付き、磨かれていくものではないかと思っています。
人と競わない、「自分らしく生きる」ということ
――いまの時代、謙虚に振舞うよりは、どんどん自己主張したり、結果を誇ったりすることがよしとされている傾向もあります。
確かに、仕事でも入試でも選挙でも、「勝った、負けた」がすべてといった風潮があります。そのためか、背伸びして頑張ったり、悲壮な決意で努力してみたものの上手くいかず、落ち込んだり挫折したりする人たちもいるようです。
僕はそういう人たちに、「そんなに肩ひじ張らなくてもいいんじゃない?」「自分らしく生きていれば結果はついてくるんじゃない?」「あなたの価値や実力は見る人が見れば分かるよ」と言いたいのです。
もちろん、自分なりに目標を持って頑張ることは大事ですし、僕もそうやって生きてきました。親からもらった資質や才能は伸ばしていった方がいいですが、人と競うことにあまり意味はないと思います。
―― 「自分らしく」ということで松井先生ご自身が日頃、心がけていらっしゃることは何ですか。
医師としては患者さんのことを第一に考え、たとえ自分の命を危険にさらすことになったとしても、目の前の患者さんを守ることを信条にしています。また、患者さんに希望を持って治療を受けていただけるよう、誠意を持って対応することも大切にしています。
経営者としては、患者さん、利用者さんに安心して来ていただける病院、施設であり続けることが目標です。それが病院や施設の経営を安定させ、そこで働くスタッフとご家族の生活を守ることにつながります。
そのため、もっとも力を入れていることは、「心の通う医療」(成仁会)、「誠意の限りを尽くす」(同塵会)といった理念をスタッフの間に浸透させることです。
それも、僕自身の行動を通じて伝えるようにしています。例えば、介護施設で入居者のご家族などが帰られる際、僕は姿が見えなくなるまでお見送りするようにしています。スタッフには何も言いませんが、いまではほとんどのスタッフが同じようにしてくれています。
経営に関して数値目標は、ほとんど掲げていません。唯一の例外は、有給消化率100%と残業ゼロの2つだけです。
「謙虚力」を日本から世界へ
――「謙虚力」がもっと広く、知られるようになるといいですね。
日本だけでなく、世界中で現在、意見や立場を異にする相手の話にまったく耳を傾けず、一方的に自己主張したり、自分の正義を押し付けたりする弊害が目立っています。
そうした中で、「謙虚力」はある意味、対立を中和する効果があるのではないかと思っています。
そもそも「謙虚力」は、日本人の感性や価値観に根差したものだというのが僕の持論であり、文化的・歴史的な背景も踏まえて「謙虚力」を世界に発信していくのが夢です。
21世紀を「謙虚力」の時代にできたら、素晴らしいのではないでしょうか。
※1医療法人社団 成仁会
長田病院/市ケ尾病院/港南中央医院/さくら通りクリニック/長田訪問看護ステーション
※2社会福祉法人 同塵会
特別養護老人ホーム:
芙蓉苑/いずみ芙蓉苑/サンバレー/新磯子ホーム/リバーサイドフェニックス/花見川フェニックス/境町フェニックス/日野サザンポート
グループホーム:
日限山ホーム
ケアプラザ:
横浜市下永谷地域ケアプラザ/横浜市富岡地域ケアプラザ/横浜市下瀬谷地域ケアプラザ/横浜市笠間地域ケアプラザ/横浜市日限山地域ケアプラザ
保育園:
赤い屋根保育園/チェリーガーデン保育園/ゲートタワーローズ保育園/中野島フレンズ保育園/鶴見すずらん保育園/小向さくら保育園/境町パイナップル保育園/目黒かえで保育園