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『Return Journey』著者・福井 研一 インタビュー|AL Sと共に13年、変わったこと、変わらないこと。
筋肉を動かす神経が徐々に失われ、やがて身体が動かなくなる「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」は、いまだ根本的な治療法が見つかっていない進行性の難病です。 そんなALSと共に生きる福井 研一さんが、自身の約10年間を綴った一冊『Return Journey』。この本は、単なる闘病記ではありません。音楽、恋愛、仲間たちとの絆、そして希望 と絶望のあいだで揺れながら辿り着いた場所ーー。これは人生のあらゆる瞬間を濃密に駆け 抜けてきた、ひとりの男の“旅の記録”です。 発話が不自由になりつつある中で、一つひとつの質問にご本人が丁寧に言葉を紡いでくれた 今回のインタビュー。そこには、「病気になっても変わらない自分」と「病気によって得たもの」の両方がありました。
現在は会社員ときどきDJ

ーー自己紹介を兼ねて現在の活動についてお聞かせください。
ALSという病気を患いながら、マイペースにDJ活動もしている会社員です。日鉄ソリューションズの特例子会社で障害者雇用を目的に設立された会社、株式会社Act.の広報チームに所属しています。
仕事は社内報の作成などの広報活動や毎週木曜日の昼休みに流す社内ラジオのメインパーソナリティなどを担当しています。
ーー社内ラジオとはどのようなものですか?
社員をゲストに招いて普段の業務ではわからない人柄などを知ってもらおうという、社員同士のコミュニケーションの円滑化を目的にしたものです。
弊社の従業員の8割は何らかの障害を持っていますが、障害にスポットを当てるのではなくその人の個性や人柄を伝える、バラエティ番組に近い放送ですね。
ーー現在は個人のDJ活動も行なっているんですか。
そうですね。以前は頻繁にやっていましたが、今は年に2回くらいお店などでDJをしています。ほかには定期的に自宅から生配信をして、少しでも「福井研一」のことを忘れてもらわないようにしています。
脳内に流れるメロディを頼りに執筆

ーー著書『Return Journey』を執筆しようと思ったきっかけを教えてください。
株式会社Act.に入社して配属となった広報チームの上司とプライベートの話をしていたら「福井さんの自叙伝を読んでみたいなあ」と言われて。それで会社の業務として出版ベースでやってみようという話になりました。
ーー本を書いてみないかと言われて、どう思いましたか?
正直言うとこれまであまり勉強をしてこなかったし、本を読む習慣もなかったので自分に務まるかわからなかったんですよね。
それでとりあえずパイロット版として2,000文字くらいのものを書いて上司に見せたところ、面白いからこのまま続けようと。
ーーどのような方法で書いたのですか?
病状的にパソコンのタイピングが難しかったので、スマホのメールに入力して書きました。今はそれもちょっと難しくなりましたが、その時は1日1,500文字を目標に書き続けました。
途中、入院などにより中断することもありましたが、10ヶ月くらいで書き上げました。
ーーあまり本を読んでこなかったとのことですが、文章に福井さん独自のキレとリズムがあると感じました。どなたかにアドバイスなどをもらったりしましたか?
アドバイスなどは特にもらわずに書きました。ただ、小学校や中学校のときの担任に「福井の作文は面白い」と言われたことがあって、その言葉を励みにはしていました。
実は執筆中、いつも頭の中でメロディが流れていたんですよね。その曲に身を委ねて書いていったら、自然とあのようなリズムになりました。起承転結もあまり考えずに、いつもの自分の言い回しをそのまま文章にしている感じですね。
友達よりも彼女派
ーー作中にはここまで福井さんを支えてきた、たくさんの女性たちが登場します。この恋愛模様も見どころの一つですね。
お恥ずかしい話、 私の人生は女性との出会いが動機となって行動することが多かったんです。友達よりも彼女を取るタイプで。私の人生を語る上で彼女たちは必要不可欠な登場人物で、そうすると必然的に女性の描写が多くなったということです。
正直言うと彼女たちには迷惑をかけてばかりでした。なので、彼女たちへの申し訳なかったという気持ちと、ありがとうの感謝を文字で残したかったというのもあります。
ーーどうしてこんなにも女性に縁があったのでしょうか。
行動派なんでしょうね。女性にも自分からグイグイ声をかけていくタイプで、病気になってからもそこは変わっていませんね。
ーー女性だけに限らず、多くの人との縁に恵まれてきたかと思いますが、本に書ききれなかった方で特別な人はいらっしゃいますか。
高校時代の担任でありサッカー部の監督でもあった増田先生ですね。すごく親身に指導してくれて、今の自分の原点を作ってくれた人だと思っています。数えきれないほどのエピソードもあって、それも書きたかったなと思っています。
実はつい最近、当時のクラスメートと一緒に自宅まで遊びにきてくれて、20年ぶりに会う ことができました。話が途切れなかったですね。
行動派であることは変わらない

ーー医師からALSと診断を受けた時とその後の気持ちについてお聞かせください。
病名を言われた瞬間は本当に目の前が真っ黒になりました。よく真っ白になるという方もいますけど、私の中では白なんていう爽やかな色では表現できない感じでした。「お先真っ暗」ってこういうことなんだと思いましたね。
でも元々が楽天家というか、あまり物事を深く考えない性格なので、目の前が真っ黒になったのは15分くらい。すぐに切り替えて、なんとか最低限の生活はできるんじゃないかと思い直しました。
あまり考えすぎても自分のメンタルが追いつかないし、元々考えるよりは行動したい方なので、うまくシフトチェンジできましたね。
ーーALSと診断されてからもたくさんの出会いがあったかと思います。人との関わり方において何か変化はありましたか?
もともとはせっかちな性格で周りのペースに不満が募ることも多くて。でも病気を患ったことで物事を俯瞰で見る癖がつきました。一歩下がって自分と周りを見るようにしたら、以前の自分の行動がすごく幼かったことに気づきました。周りにもたくさん嫌な思いをさせてきたと思います。
ーー逆に変わらないのはどんなところでしょうか?
行動力かな。周りには「病気なのに行動的でよく頑張っている」と言ってもらえることもありますが、自分では頑張っているつもりはないんです。病気だからといって今までの自分のスタイルを崩したくなかったので。
ただ最近は、行動範囲の地図がちょっと狭まってきたのは実感していますね。今年の4月くらいまでは電動車椅子に乗って自分一人で出かけることもありました。でもそれ以降は腕の筋力が低下してしまい、車椅子のレバーを自分でコントロールできなくなってきて。今は介助用車椅子でパートナーやヘルパーさんの助けを借りて出かけています。
病気になって叶った夢もある
ーー病気を患ったからこそわかったことや得られたことがあれば教えてください。
こんなにも親身になって自分のことを考えてくれる仲間がいる、ということですね。
「TAMACHINISTA!!!(タマチニスタ)」というDJ仲間たちとは病気になる前からの付き合いで、15年以上経った今も誰一人欠けることなく続いています。「何かやろうよ」と声をかければ、どうすれば私が行動しやすいかを親身になって考えてくれる。そういう仲間を大切にしたいと改めて思いますね。
ーー著書にはたくさんの人とのエピソードが描かれていますが、ご自身にとって最もスペシャルな出来事を一つ挙げるとしたらどんなことでしょうか?
私としては病気になったことで、より行動的になって音楽活動に力が入りました。その中で長年のファンである「PENPALS(ペンパルズ)」というバンドと一緒にライブやイベントに出演する機会をいただいたり、プライベートでも一緒に過ごすようになりました。憧れだった人たちが今ではすごく身近な存在に変わっていったんです。
ーー病気になっていなかったら叶わなかったかもしれない夢だったんですね。
そうですね。病気になっていなかったら毎日普通に仕事をして、お酒を飲んで家に帰っての繰り返しだったのかもしれません。
あまり神様の存在を信じるタイプではないんですけど、なんとなく「お前には病気を与えるから何かもっと変わったことをしろ」とでも言われたのかなと思っています。
「生きるとは」より「生きていこう!」

ーーこれから挑戦したいことや書いてみたいテーマがあればお聞かせください。本作の続編は考えていますか?
今回の本は、今から3年前くらいで一旦クロージングしています。そこから今日に至るまでの間にも本当に色々なことがありました。
例えばこの本を書いている最中に風邪をこじらせて入院したり、電動車椅子が運転できなくなったり。言葉は悪いけど、面白いネタが結構あるので、機会があれば続編というのもいいかもしれませんね。
ーーそういう逆境を「面白いネタ」と言えるところが福井さんらしいですよね。ぜひ続編も読んでみたいです!逆にALSをテーマにした本などはお考えですか?
正直いうと「生きる」というような重たい内容ではなくて、「生きていこう」といったポップなテーマの方が自分には合っていると思います。それによって病気を患っている人に勇気を与えることができればうれしいですね。
ーー改めてご著書「Return Journey」は、同じように病気と戦っている方、人生に悩んでいる方にもぜひ手に取っていただきたい一冊だと感じました。そんな皆様にも向けて、最後に メッセージをいただけますか?
ぜひ本書を読んでいただき、皆さんと同じ時代の同じような場所に私のような人物がいたんだということを知って、何か少しでも共感できる部分を見つけてもらえればうれしいです。
それと、同じ病気だからといって無理にそのグループに属さなくてもいいのかなと思っています。もちろん新しい出会いも大事ですが、昔からの自分の周りの人たちとの関係を育むことで、必ずみんなが力になってくれますし、そうすることで明るい未来が待っているのではないかなと思います。




