<第5回>社会のなかにひそんでいる「サイコパス」の事例<仕事編>

サイコパスは凄惨な殺人事件などを起こす人物だけではありません。世のなかにはいろいろなタイプのサイコパスがいます。

本記事では私の経験を含め、身近に潜んでいるサイコパス的要素をもった人のさまざまなエピソードを紹介していきます。

おそらく読者の皆さんも身近に感じるエピソードがあるはずで す。またこれまでは少し嫌な人だと思っていた人が、実はサイコパスである可能性があり、ごく身近に存在しているということを知ってほしいと思います。エピソードに出てくる人物はすべて仮名です。 

叱責の度を越え、罵倒してくる直属の上司〈 32歳・リース会社社員・塚田さんのエピソード〉

塚田さんの上司であるA課長は、感情の起伏がとても激しい人です。さっきまで笑っていたかと思うと、突然部下のところへ来て、
「なんだ、この資料は。まったくできてない! やり直し!」
と大きな声で怒鳴って、デスクに資料を叩きつけていくのです。

「そんなに怒鳴ることなのかな? そんなにダメな資料かな?」
と釈然としないことが多いのですが、上司だから仕方がないと思って、作り直してまた持っていきます。

たまに、
「おい、ちょっとこれ見てくれ」
と呼びつけ、課長が作った企画書を見せられ、感想を述べろと言われます。塚田さんは 自分が作ったほうがましだと思うこともありますが、
「いいと思います。とても噛み砕いてあって分かりやすいと思います」
と嘘であっても言っています。

「そうか、分かった」
と言われ、それから数日後、また塚田さんのもとへ、
「おい、何なんだよ。おまえ、部長の前で恥かいたじゃないか。おまえに確認してもらっていいと言うから部長に提出したんだよ。『君、これじゃ全然ダメだよ』と言われたじゃないか」

塚田さんはA課長の言っていることが理解できません。しかも、
「俺は別の案件があるから、これおまえが直しておけ」
と押し付けられます。

さらに以前全然ダメと言われた資料が部長に提出されていて、先ほど直して提出したものがゴミ箱に捨てられていたということもありました。

塚田さんはストレスが溜まるし、怒鳴られるというのは気持ちのいいものではないため、まともに課長の相手をするのをやめました。

塚田さんは比較的、気にしないほうなのでよかったものの、以前かなり追い込まれて、辞めていった人が何人もいたそうです。

<解説>
怒鳴り散らしたり、アメとムチで他人を操ろうとしたり、何か自分の失策が あると、部下に責任転嫁してくるような直属の上司に心当たりがある人もいると思います。彼らは『クラッシャー上司』ともいわれます。クラッシャーですから部下を潰し続け るのです。その発言は断定的で、否定的というのが特徴です。

人の手柄を自分の手柄にする先輩〈26歳・広告代理店社員・中山さんのエピソード〉

中山さんの先輩のBはクライアントからの信頼も厚く、プレゼンテーションは誰もが認める優れたシナリオと語り口でずば抜けており、数々の企画を通してきた女性です。

そんなBが、あるとき、
「一緒に新しい企画を立ち上げよう」 と中山さんに声を掛けました。中山さんは尊敬する先輩からの申し出をとてもうれしく光栄に思いました。

そして、Bは中山さんに、
「私がバックアップするから、まず企画の素案を作ってみて」 と言いました。彼女は中山さんを企画の責任者にしてクライアントに売り込んであげるとも言い、盛り立ててくれるとも言ってくれました。 そして、中山さんは新たな企画素案を作るべく、1週間くらい寝るのも惜しんで仕事に取り組みました。締め切りの前日、徹夜して企画書を仕上げ、翌日Bに提出しました。

Bは、
「よくできているわ」
と高く評価してくれ、
「でも、いくつか訂正する点があるから、私に元のデータをちょうだい」
と言って、企画書を引き取ったのです。

それから1週間ほど経っても、中山さんの元にはそのあとの連絡がないため、中山さんはBのところへ行って、
「例の企画の件はどうなりましたか」
とたずねると、

「あぁ、一昨日、先方にプレゼンテーションに行ってきたわ。昨日連絡があって、企画は通過したわよ」
と言うのです。

中山さんが、
「なぜ、私に連絡いただけなかったのですか?」
と聞くと、Bから、
「なんで、あなたに連絡する必要があるの? 私のクライアントよ」
という返事が返ってきたのです。

「だって、Bさん、私を売り出してくださるとおっしゃったじゃないですか」
と言うと、
「何言ってるのよ。私が信頼されているからあの企画は通ったのよ。ずいぶんな自信家ね」
と返されました。そのあと中山さんは言葉が出ませんでした。

あとでプレゼンテーションに付き添ったという同僚に聞くと、自分が作った企画書をそのまま使っていたそうです。中山さんは憤慨してそのことをほかの社員に話すと、 「あぁ、またやったな。そうやって仕事ができると思った後輩に企画を考えさせて、自分の手柄にしてきたんだよ、彼女は」
と言うのです。

<解説>
うまく人を利用して自分の手柄にするというのも、サイコパスに多い手口です。普通の人では気が引けるようなことに対しても、まったく罪悪感がありません。人の企画を横取りしても、それについて何も感じないのがサイコパスたるゆえんです。このような先輩には要注意です。

平気で嘘をつき、大きな損害を与えても罪の意識のかけらもない経営コンサルタント

最後に、私自身の経験について述べていきます。

私は医療法人を経営していますが、ある経営コンサルタントの行動で甚大な金銭的被害に遭いました。サイコパスに興味をもち、その資質を検証して、世のなかの人の役に立つ本を出版したいと思ったきっかけでもある出来事です。

私は彼の能力を信頼してすべてを任せていました。彼とは 年ほど前に知り合い、私は彼が有能であることを知っていましたので、再会した5年ほど前から経営面の仕事を任せていたのです。実際、交渉事もうまく、M&Aもどんどん決めてきましたので、私は信じ切っていました。能力はあるし、人を信じさせることにも長けていたのだと思います。つまり騙すのがうまかったのです。その間、時には彼の悪い噂が耳に入ってきたり、知人から彼の行動について忠告を受けたこともありました。しかし、それでも私は彼を信じていたのです。

そんなあるとき、取引先のある知人からの連絡で、彼が作った会社に私の法人のお金を勝手に振り込んでいるのが発覚したのです。そこですぐに呼び出して問い詰めると何の謝罪の言葉もなく、むしろ自分は悪くないと弁明を始めたのです。

「申し訳ない」という一言もありません。

人の金を騙し取ったわけですが、まったく悪びれる様子がありません。それどころか金がそこにあったから私が動かしてあげたという態度でした。

正直、私は怒りもありましたが、それよりも、彼のその態度に大きなショックを受けました。自分はこんな人間をずっと信じてきたのかと思うと情けなくなりました。

私はそういう目に遭ったわけですが、この件については人生の勉強をさせてもらったと思うことにしました。この一件で、私は世のなかにこういうタイプの人間がいることを知ることができたのだから、それも勉強だ。少なからず同じような被害に遭っているであろう人々のために何か伝えていかなければならないと思ったのです。

私のように医師でありながら病院の院長などの役職に就いている人間の場合、経営についてあまり詳しくないことがあると思います。そんなときには、経営コンサルタントなどに助言を仰ぐこともあります。ですが、そこにつけ込んで悪さをする人間がいるということを知って、十分に気をつける必要があります。彼らはずる賢いので見事に騙されてしまうことも多いのです。

彼は今でも次々と人を騙し、会社を作り、金を横流しにしているという噂を耳にするのです。

私はこの事件をきっかけにサイコパスについて興味をもちました。そしてサイコパスについて深く研究するうちに、実に人類にとって有害なサイコパスがいることが分かったのです。場合によっては人類を滅ぼしかねません。この話に出てくるような人は、一見すると優秀で魅力的な人に見えますが、良心も倫理観もなく、まるで人に化けた爬虫類のようだと私は思っています。このようなサイコパスに我々人類は騙されないようにしていかねばならないと気づかされた事件だったのです。

本著ではこの他に多くの事例を記しています。ぜひご覧ください。

 

あなたを殺すサイコパス
あなたを殺すサイコパス松井 住仁-Matsui Junin-

偽りの仮面を被り、
すぐそばであなたを狙っている――。


同僚や友人、家族……
人の心をもたないサイコパスを見極め、
身を守る方法を手に入れる


サイコパスと聞いて多くの人がイメージするのはチェーンソーなどを使い
平気で人を殺すホラー映画の登場人物や、
無差別に大量虐殺を行うような殺人鬼といった人物ではないでしょうか。
しかしサイコパスとは残虐な殺人を行う人のことだけを指しているのではありません。
彼らの特徴として「冷淡であり共感性が欠如している」
「良心に乏しく罪悪感を覚えることがない」「病的な虚言がある」などが挙げられます。
程度の差こそあれ、これらの特徴に当てはまる人は多く存在しているはずです。
さらにこれらが当てはまる人は経営者や弁護士など、
社会的地位の高いとされる人にも多いといわれているのです。
本書は著者が右腕として信頼していた人物がサイコパスだったため
被害に遭ってしまったという自らの経験から、
仮面を被り偽っている彼らにどう対処していくかを
世の中の人に伝えたいと考え執筆しました。
著者の医学的見地からサイコパスの正体に迫ることで、
同僚や友人、家族など自分自身のそばにサイコパスが潜んでいることを知ってもらい、
トラブルから身を守るための方法を学ぶことのできる一冊です。