<第1回>残忍な殺人犯だけではない!あなたの周りにもいる「サイコパス」

数年に一度、無差別殺人などのメディアをにぎわせる凄惨な事件が起きています。テレビや新聞、ネットニュースなどで事件の詳細を知ると、あまりにもグロテスクな内容に衝撃を受けることが多々あります。

このような猟奇的殺人、異常犯罪を起こす人はサイコパスである可能性が高く、カナダの心理学者、ロバート・D・ヘア氏が行った調査によると、刑務所にいる受刑者の20%程度がサイコパスであったと報告されています。

しかしサイコパスとは、そのような残忍な殺人犯だけのことを指すのではないのです。本記事ではサイコパスの定義や特徴、診断基準を解説していきます。

「反社会性」がポイントとなる、サイコパスの定義とは

サイコパスは、精神医学の世界的基準であるアメリカの精神疾患分類DSM‐5(精神障害/疾患の診断の統計マニュアル 第5版)で反社会性パーソナリティ障害と定義されています。

反社会性パーソナリティ障害であるかどうかの診断基準は次の7つです。

1 法律にかなって規範に従うことができない、逮捕に値する行為を抑えられない
2 自己の利益のために人を騙す
3 衝動的で計画性がない
4 喧嘩や暴力が伴う不機嫌な反応
5 自分や他人の安全を考えられない
6 責任感がない
7 良心の呵責がない

反社会性パーソナリティ障害とされるサイコパスは、社会の規則を気にせず、周囲の人をだしに使ったり、傷つけたりすることに対して少しも悪いと思わないため、違法行為に及んだり、他人の生活に悪い影響を及ぼすのです。

ただし反社会的な行為を行うことはあるにしても、それが殺人にまでエスカレートするというのはごくわずかです。

“表の顔”と“裏の顔”が交差する、サイコパスの特徴

オックスフォード大学感情神経科学センター教授のケヴィン・ダットン博士は、人格を形づくる性質のなかには、もともと次のサイコパス的な要素が含まれているという分析をしています。

1 非情さ
2 魅力
3 一点集中力
4 精神の強靭さ
5 恐怖心の欠如
6 マインドフルネス(現在や目の前にあることに集中する感覚)
7 行動力

社会的に成功している人は、これらの性質をうまく発揮し、サイコパス的性向をプラスに転じさせていますが、これらの性向が反転するといサイコパスとしてのマイナス面が現れてくることがあるのです。

バージニア大学心理学部教授で社会心理学者のジョナサン・ハイト氏が「道徳心の分類」というものを唱えています。

1 他人に危害を加えない
2 フェアな関係を重視する
3 共同体への帰属心、忠誠心
4 権威への尊重
5 神聖さ清純さを大切に思う信仰

これらの5つの分類においてサイコパスは1 、2は尊重しないものの、3~5については意外なことに尊重しているのだとジョナサン・ハイト氏は説明します。

精神医学者と犯罪心理学者が提唱するサイコパスの診断基準

医師や研究者がさまざまなサイコパスの診断基準を提唱していますが、ドイツの精神医学の研究者クルト・シュナイダー氏が提唱するのは、次の10種類の特徴です。

《日常生活で見られるサイコパスの特徴》

タイプ 特徴
意志欠如型 持久性・自発性を欠き、転校・転職などを繰り返す
発揚惰性型 明るく社交的だが、知恵や自制心に問題があり、軽率な行動が現れる
爆発型 興奮しやすく暴力的、過敏な刺激型と不安な興奮型の2つに区別される
自己顕示(欲)型 仮想と現実を混同し、充足のために誇大化や虚言がある
人間性欠如型 同情・良心・羞恥心が欠如し、自他の情動に関心がない
狂信型 特定の概念のために生涯をかけ、些細なことも問題視する
気分易変型 突然抑うつ状態や不機嫌になる
自己不確実型 対人関係や道徳に敏感なタイプと脅迫的観念や行動が強いタイプがある
抑うつ型 生まれつき悲観的で厭世的、気分が暗く偏執性から問題行動を起こす
無力型 無力感を訴えることが多い

 

またよく使われている診断基準に犯罪心理学者ロバート・D・ヘア氏が作ったサイコパスチェックリスト(PCL‐R)があります。

「病的な虚言」「冷淡で共感性に欠ける」「行動のコントロールができない」など多くの項目を0~2点の3段階で答えて、その合計点数で診断します。成人の場合は合計で30点を超えるとサイコパスとされ、20点未満ではサイコパスではないとされます。

◎PCL‐R(サイコパスチェックリスト)

1 口達者/表面的な魅力
2 誇大的な自己価値観
3 刺激を求める/退屈しやすい
4 病的な虚言
5  偽り騙す傾向/操作的(人を操る)
6  良心の呵責・罪悪感の欠如
7  浅薄な感情
8  冷淡で共感性の欠如
9  寄生的な生活様式
10 行動のコントロールができない
11 放逸な性行動
12 幼少期の問題行動
13 現実的・長期的な目標の欠如
14 衝動的
15 無責任
16 自分の行動に対して責任が取れない
17 数多くの婚姻関係
18 少年非行
19 仮釈放の取消
20 多種多様な犯罪歴

しかしこれらの検査ではサイコパスであるか否かを測定できないケースもあります。表と裏の顔をもち社会的に活躍する一方で、権力志向になる危うさをもち合わせている人たちです。

サイコパスと明確に診断するのはいまだに難しい点もあり、大切なことはサイコパス的な性格の特徴というものを、私たちがよく認識しておくべき点です。重要なのは身の回りに潜むサイコパスにアンテナを張り、日頃からサイコパス的な行動の被害に遭わないよう注意するということです。

成功する勝ち組タイプのサイコパスが、世のなかにとって利益になるような社会貢献をしてくれるのであれば問題はありません。しかし悪政を敷いたり人類を脅かす戦争や大量虐殺に走ったりするようなサイコパスが現れると、社会や周囲の人間に多大な悪影響を及ぼすということを理解しておく必要があります。

あなたを殺すサイコパス
あなたを殺すサイコパス松井 住仁-Matsui Junin-

偽りの仮面を被り、
すぐそばであなたを狙っている――。


同僚や友人、家族……
人の心をもたないサイコパスを見極め、
身を守る方法を手に入れる


サイコパスと聞いて多くの人がイメージするのはチェーンソーなどを使い
平気で人を殺すホラー映画の登場人物や、
無差別に大量虐殺を行うような殺人鬼といった人物ではないでしょうか。
しかしサイコパスとは残虐な殺人を行う人のことだけを指しているのではありません。
彼らの特徴として「冷淡であり共感性が欠如している」
「良心に乏しく罪悪感を覚えることがない」「病的な虚言がある」などが挙げられます。
程度の差こそあれ、これらの特徴に当てはまる人は多く存在しているはずです。
さらにこれらが当てはまる人は経営者や弁護士など、
社会的地位の高いとされる人にも多いといわれているのです。
本書は著者が右腕として信頼していた人物がサイコパスだったため
被害に遭ってしまったという自らの経験から、
仮面を被り偽っている彼らにどう対処していくかを
世の中の人に伝えたいと考え執筆しました。
著者の医学的見地からサイコパスの正体に迫ることで、
同僚や友人、家族など自分自身のそばにサイコパスが潜んでいることを知ってもらい、
トラブルから身を守るための方法を学ぶことのできる一冊です。