<第6回>サイコパスと共存する社会で自分の身を守るには

サイコパスが暴挙に出た場合は暗殺もやむなし

過激な意見ではありますが、サイコパスであるかを見極めるために入学試験や就職試験でMRI検査によって扁桃体を調べるべきだという人がいます。これは人道的な問題 もあるため簡単に導入を決めるべきではありませんが、私は身長体重を測るのと同じで絶対に検査が必要だと思っています。

決して人を差別するのではなく、もともと良心をもっていない脳の特徴を本人も周囲も認識することができるからです。 ただし遺伝子のゲノム解析により数々の病気が分かり、将来の病気も分かって予防につなげられるような時代であることも確かです。

この意見がそのまま実現するかどうかは別にしても、産業医や臨床心理士が随時、サイコパスと思われる当人と、周囲で被害を受けている人のケアをきちんと行い、どちらに対 しても「駆け込み寺」のような場を作るべきだと思います。

脳機能の障害を伴うサイコパスについては、残念ながら今のところ確固たる治療法は確立していません。もちろん今後、治療法が生まれ、脳の機能に支障があるサイコパスの人々が治る日が来ることを望み祈っています。

成功している人がもつプラスのサイコパス的性向が世のなかに対し貢献していることは事実なのです。これからの世のなかでは、サイコパスにはプラスの性向をうまく活かして もらい、サイコパスではない人々との共存の道を考えていくことが大切なのではないかと思います。

社会や組織、国家のトップがサイコパスの場合、我々は何もできないと諦めてはいけま せん。

民主主義の社会においては、どれか一つの思考、思想、宗教などが正しいという考え を捨てることが必要です。多様性こそが民主主義のすばらしさだと私は思うのです。

昔、 ヨーロッパの哲学者で「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利 は命をかけて守る」と言った人がいます。まさにこの発言は民主主義の根幹だと私は思います。

またユダヤ人の社会では、全員一致となった案は否決されるといいます。それは反対意見が一つもないのはおかしいという理由で発案者やリーダーの暴走を止めるためなのです。

弁証法的な考え方も多様性にとっては重要だと私は考えます。すべての人にその人 なりの考え、行動する自由があるということを認める社会にすることが重要です。その考 えをもった人たちで、トップに君臨するサイコパスについて議論し、ともに声を上げることも時には必要だと考えます。

中国『三国志演義』のなかに、世を治めていた董卓は自分の権力を振りかざし好き放題していましたが、側近の呂布に暗殺されるという話が出てきます。

このようにサイコパスが勢力を伸ばし、暴挙に出た場合には、極論になりますが、暗殺されるのも致し方ないと私は考えます。

出現し続ける「サイコパス」に一人ひとりがリテラシーを持ち観察することが大切

サイコパスは、医学的には脳の扁桃体周辺の部位の機能低下によって情緒的なことを感じたり、他人に共感したりすることができないという「疾患」です。一方、幼児期の虐待などのトラウマや人生でのつらい経験から後天的に獲得する「サイコパス的性向」という位置づけの場合もあるようです。

診断基準や脳の撮影など、今ある限りの検査方法を駆使して医学的にサイコパスと明確 に診断することはできますが、それでも当てはまらない場合があるかもしれません。

そもそもそれらの判定基準は犯罪や反社会的なことを起こす人向けに作られたものであり、性格に近いようなサイコパス的性向については、私たち一人ひとりが判断して評価しなけれ ばなりません。

そして、「サイコパス的性向」をもっている場合には、同じ人間のなかに も正負の両面が潜んでいます。それがプラス面として出る場合とマイナス面として出る場合があるため、「サイコパスは悪」と一刀両断にはできない面もあります。

私たちの日常生活において害悪を及ぼすマイナスのサイコパス的性向を出している人には早急に対処して回避しなければなりませんが、世のなかで成功しているプラスのサイコ パス的性向を出している人は、私たちが生きていくうえで参考にできると思います。

またサイコパスの度合いには個人差もあります。サイコパスはとてもファジーで一言で明確に定義するのはなかなか難しく、一筋縄ではいかないと感じています。とはいうものの日常生活のなかで出会うサイコパス、あるいはサイコパスに類する人たちに対しては厳然と対処していかなくてはなりません。

私がサイコパスにフォーカスして本を書こうと考えたのは、個人的な事件がきっかけでしたが、そのときの「サイコパスは人類の敵」だという思いは今も同じです。

ただし、私が人類の敵だと思っているのは、サイコパス的性向によって、国家を牛耳っ て国民に害悪を及ぼす独裁者のような人々です。彼らの存在は人類を滅ぼし地球をダメにすると大げさではなく強く思っています。

いつの世にも出現し続けてきた権力者の心に住まうサイコパス的性向は、私たちにはいかんともしがたいものです。しかし、権力者がどんなことを考え、何をしようとしている のかについては、一人ひとりがリテラシーをもち観察していくことが大切だと思います。

あなたを殺すサイコパス
あなたを殺すサイコパス松井 住仁-Matsui Junin-

偽りの仮面を被り、
すぐそばであなたを狙っている――。


同僚や友人、家族……
人の心をもたないサイコパスを見極め、
身を守る方法を手に入れる


サイコパスと聞いて多くの人がイメージするのはチェーンソーなどを使い
平気で人を殺すホラー映画の登場人物や、
無差別に大量虐殺を行うような殺人鬼といった人物ではないでしょうか。
しかしサイコパスとは残虐な殺人を行う人のことだけを指しているのではありません。
彼らの特徴として「冷淡であり共感性が欠如している」
「良心に乏しく罪悪感を覚えることがない」「病的な虚言がある」などが挙げられます。
程度の差こそあれ、これらの特徴に当てはまる人は多く存在しているはずです。
さらにこれらが当てはまる人は経営者や弁護士など、
社会的地位の高いとされる人にも多いといわれているのです。
本書は著者が右腕として信頼していた人物がサイコパスだったため
被害に遭ってしまったという自らの経験から、
仮面を被り偽っている彼らにどう対処していくかを
世の中の人に伝えたいと考え執筆しました。
著者の医学的見地からサイコパスの正体に迫ることで、
同僚や友人、家族など自分自身のそばにサイコパスが潜んでいることを知ってもらい、
トラブルから身を守るための方法を学ぶことのできる一冊です。