DX戦記

中小企業のDX推進は落とし穴だらけ!数々の罠にはまってきたプロパティエージェントだからこそわかるDXの極意

Interview

DX(デジタルトランスフォーメーション)の概念が提唱されてから20年近くになりますが、中小中堅企業のDXはそれほど進んでいません。満員電車に乗って毎日出社して、紙の稟議書に判子を押して回覧して、ファイルに閉じてキャビネットに保存している会社も少なくありません。FAXでDMを送っている会社すらあります。

なぜ中小企業のDXは進まないのでしょうか。2018年からDXに取り組み、その過程で数多くの失敗をしてきたプロパティエージェント株式会社の中西聖社長は「今後DXに取り組む企業に役立ててほしい」と、このたび書籍『DX 戦記 ゼロから挑んだデジタル経営改革ストーリー』を上梓しました。本に込めた思いについて語っていただきました。

不況になっても傾かない筋肉質の会社を作るためのDX

−−『DX 戦記 ゼロから挑んだデジタル経営改革ストーリー』はどのような本ですか?

弊社は2018年から社内にDXチームを作って働き方の変革に取り組んできましたが、当時はまだDXという言葉も浸透していず、早過ぎた挑戦でロールモデルもなかったために、数々の失敗をしてきました。

試行錯誤を繰り返して現在はリモートワークが当たり前というレベルに達した2021年、社内DXの推進で得たノウハウをシナジーとして生かすべく、M&Aでシステム開発会社を買収して子会社としました。

そうしてデジタルシステムの導入支援サービス事業に参入したのですが、弊社も経験した7つの落とし穴にはまっている顧客企業がとても多いことに気づきました。そこであらかじめ落とし穴を避ける知見を書籍にして、これからDXに取り組む企業に役立ててほしいと考えたのです。

書籍の内容は、弊社のDX導入ストーリーを通してノウハウをお伝えするものです。この本はDXを考えていない企業の方にもぜひ読んでほしいです。中小企業にはDXは必要ないと考えている社長さんも多いのですが、いまDXに取り組まないと働き方改革も進むなか、将来の人材採用競争で勝つのが難しくなります。中小企業でもDXはできるし、我々と同じ失敗を繰り返さないでほしいという気持ちを込めました。

−−この本はまるでテレビ番組の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』のように学びにあふれています。そもそも御社はなぜDXに取り組もうと思ったのですか?

弊社はもともと不動産の開発販売を行う事業会社なのですが、当時、不動産業界はとても景気が良くてみんなが浮かれていました。2008年にリーマンショックが起きて景気が大きく落ち込みましたが、そののちずっと右肩上がりで成長を続けていたからです。

しかし経済危機というのは10年に1回くらいの頻度で起きるものです。リーマンショックから10年で、金融環境に危機感を持っていました。そこで、好景気に浮かれて膨らんだコストをダイエットして、危機的状況下でもしっかりと利益を出せる筋肉質の企業体に変えていかなければと考えました。

そこで目をつけたのがDXです。当時、不動産投資の相談をAIのチャットボットで回答するというサービスを行っていたので、デジタルテクノロジーには社会にイノベーションを起こせる何かがあるという感触もつかんでいました。

DXは総務部の仕事ではなく攻めの経営案件である

−−実際にはDXはとても難しくて失敗続きであったと本には書かれています。その原因を簡単に説明していただけますか?

DXと聞くと、みなさんデジタルツールを導入して効率化すればいいのだと簡単に考えがちです。「導入するとコストが下がります」というツール会社の売り文句を妄信してしまうのです。しかし当然ですがツールを導入するだけでは駄目で、いかに運用するかが大事なのです。運用が伴わないと結局、非効率な使われ方しかしなくなってしまうのです。

そのため運用を管理する担当者が必要になりますが、ここでも初心者はミスをしがちです。たいていは総務部に他の仕事と兼務でDX担当者を作るのですが、そのレベルでは仕事が回りません。DXの導入は、新しく工場を作ったり事業を始めたりするくらいの規模の大仕事です。ですから工場長や事業部長に相当するような、直接に社長と意見を交わせるような専任のDX担当やパートナーが必要です。

DXはただのツールではなく全社的な業務改革ですから、適切なリソースを集中投資することで初めて大幅な生産性向上が見込めるようになります。

−−DXがそこまでの大事業であるとのイメージはありませんでした。なぜそれだけのリソースを投入する必要があるのでしょうか?

DXが単なる生産性向上のツールではないからです。

そもそもデジタルトランスフォーメーションは、社内での働き方にとどまらず社会全体で起きていることです。つまり将来的には事業そのものをDXしなければならない事態まで想定しなければならないのです。

アナログレコードがCDに置き換わり、今は配信が主流になってCDが売れなくなったことからもわかるように、社会のデジタル化でこれまでのビジネスモデルが脅威にさらされているという自覚が必要です。社内DXは最終目的ではなく、その先には事業自体のDXがると考えてください。
そこまでを見据えると、企業体の頭の天辺から足の先までを一気通貫で見通して考えられるような社長の意識とそれを実現するに足るDXの担当やパートナーが必要になります。そこには新規事業を立ち上げる意気込みで、適切な人材を配置する必要があります。
多くの中小企業ではDXの担当者に総務部の一社員を用意しますが、DXに必要なのは守りの人材ではなく、自分から動ける経営企画や営業のような攻めの人材です。

業務と事業のDXを行わなければ会社の未来はない

−−プロパティエージェントでは、事業のDXをどのように行っていますか?

弊社はもともと不動産の開発販売を行っていましたが、今はそれに加えて不動産のクラウドファンディングも行っています。不動産投資をファンド化して、クラウドファンディングで1万円からスマホで投資できるようにしたものです。

また、オウンドメディアを作って、ウェブ上で不動産投資に興味のある人を集客しています。ここで集めた15万人の会員から、ウェブマーケティングで不動産投資のニーズを引き出して、AIでデータ分析して、会員のニーズにあった建物をつくったり、仕入れたりして販売する試みを始めています。

さらに、投資用マンションの付加価値を高めるために、顔認証技術を用いて、エントランス、エレベーター、メールボックス、宅配ボックス、玄関ドアなどを、鍵を使わずに顔パスで利用できるようにしました。
それだけだとただの設備の進化ですが、顔認証技術は個人のIDと結びついるため、IDのプラットフォームを作ることで、将来的にはマンションの外に出てからも、その人の興味に合わせて地域の情報や近くのお店のクーポンなどが通知されるような仕組みにしていってます。

−−すごいですね。DXに取り組む前のプロパティエージェントはどのような会社だったのですか?

今から考えれば非効率な会社でした。当時の不動産業は法令で証紙の保存が義務付けられていたこともありペーパーレス化はまったく進んでいませんでした。そのため顧客データも紙ベースで保存していて、各部署で必要になるたびに元データを参照して不足分を手入力で穴埋めするような状況でした。

昔の会社であれば当然の業務だったかもしれませんが、DXによってそのような作業はなくすことができます。新卒の大学生にとって、「書類の穴埋め作業をやってください」と言われるのと、「それはAIが行うのでお客様の付加価値増加のために時間を使ってください」と言われるのと、どちらが魅力的でしょうか。日本が今後ますます人口減少していくことは明らかなので、優秀な人材を採用したいと考えるのであれば、DXに取り組まない手はないと思います。

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